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スペシャルコンテンツ 記事

運動連鎖アプローチ
※運動連鎖アプローチ(R) はPKAAの登録商標です(登録第5597600号)
フィジオ運動連鎖アプローチ協会 代表 山本尚司



【第22回】

皮膚・筋膜の触診について

 評価・治療に際して、まず身体に接触する軟部組織は皮膚であり、筋膜・筋肉・骨関節への パルペーションにおいても皮膚を介して実施しています。
関節機能障害における病態を考える上で、関節の不整合は欠かせない知見ですが、 軟部組織の階層性を考えると骨関節に付随して軟部組織が何らかの変位を起こしているものと察せられます。

 皮膚は全身を一枚のシートのように身体を覆っているため、局所に機能障害があり、 筋スパズムがあると全身に波及することになります。
実際の機能評価においては、四肢であれば同質同量で両側をパルペーションし可動性を比較していきます。
パルペーションの感覚としては、可動性をみようとするよりは侵襲性がないように動きに追従するように、 反応を確かめるような触り方が好ましく、繰り返し行っていると、皮膚・筋膜の継時的な変化がわかるようになります。

 左右でみてみると相対的な変位を評価することになりますが、一側の皮膚・筋膜の誘導にて 対側の変位が改善するようであれば、治療側は最初に動かした側からということになります。 逆に、皮膚・筋膜の誘導にて対側に何の変化もない場合は治療側として選択しないことになります。
連鎖のない部位、反応が少ない部位に関しては全身への関与が少なく、局所の変化のみでは侵襲性が 強く、かえって悪くなることがあるためアプローチ対象からは外します。
局所の機能障害は、関連部位が存在し、お互いが強固に結びついています。 最も関連がある連鎖部位を見つけ出し、同時に感覚入力を与えることで連鎖を促し、機能障害を解除していきます。

 セラピストは触診から①Reactionの有無、②刺激の方向 遠位⇆近位、③刺激の深さ 浅筋膜・深筋膜、 ④軟部組織の弾力性・可動性・滑走性を確認します。

筋肉が収縮するとき停止部付近から起始部に近づくように動くため、 皮膚・筋膜を停止部から起始部に刺激することで収縮を誘導できます。 また、起始部から停止部に皮膚・筋膜を刺激すると伸張・弛緩を誘導できます。
大腿四頭筋の過緊張による疼痛・圧痛が生じている場合、一般的に主動作筋にアプローチを行いますが、 効果が思わしくない場合も多く、拮抗筋のハムストリングスに対して促通するようにアプローチを行うことで 相反抑制により改善がみられることもあります。
主動作筋をアプローチするのか、補助筋、拮抗筋、連結筋をアプローチするのか、隣接関節の筋に対してアプローチするのかは 触診による反応から判断しますが、この操作は侵襲性が低く、一つの筋がどのように動作に影響しているのか確認するのに有効です。



北垣 祥平(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第21回】

~運動連鎖アプローチ®によるパルペーションテクニックでの臨床における考え方について~

 運動連鎖アプローチ®による臨床原則の中で同質同圧でのパルペーションテクニック(以下、触診)がある。 刺激と反応という流れであると考える。単純なことであるが弱い刺激であれば弱い反応、強い刺激であれば強い反応となる。 刺激と反応の繰り返しの中で上行性・下行性へと連鎖が波及し流れる。そこで、連鎖のある所にアプローチを行い、 連鎖のない所ではアプローチをした後にどう変化したかを見る。
この一連の流れは、刺激と反応の繰り返しの中でセラピスト自身がどう認知・認識したかどうかである。 そして、その認知・認識が「正しい」という肯定として捉えるのではなく、 「そう考えた」という考えで理解していることが大切なことである思う。 そうすることで、治療の中で、上手くいかない・間違っている場合でも再度考え直すことや戻ることが可能となり対応ができる。 結果、治療選択の確率が上がり、適切な治療へと進むと考えられる。
また、運動連鎖アプローチでの触診では刺激・反応・認知はセラピストの皮膚(手)からの情報収集であり、 セラピスト自身が評価の道具となることもしっかり認識し、治療の中でその情報(考え)が思い込みではないかどうかを 常に頭の隅に置いておいて確認しながら行うことが必要と考えられる。

以下、症例について紹介する。

現病歴;70代女性、今年9月末、自宅に親戚夫婦が数日間泊まり食事の用意などで立ち仕事がいつもより多い中、 腰背部の痛みを覚えた。親戚が帰った後も1週間ほど腰背部痛が続き痛みの軽減がなく来院する。

既往歴;今年の春に当院にて左足関節脱臼骨折にて手術をされている。レントゲン上は問題なし。
腰背部(左側)に圧痛(+)、体幹右回旋時に骨盤(左側)に痛み(+)、下肢の可動域低下(-)、筋力低下(-)、 立位でのストラテジー評価(外乱刺激による前後・左右)では左側方へのシフトがやや難しい状況である。 運動連鎖によるパルペーションテクニック(以下、触診)では、最初に臥位にて評価する。
左足関節の既往があったので足関節から上方へ進めた。距骨を内後方へ動かすと左腸骨のインフレア・前傾の連鎖があった。 そして、左側臥位にて腸骨インフレア・前傾での上行性への連鎖が確認されなかったので、 肩甲骨から左腸骨へと下行性への連鎖に視点を変えた。肩甲骨から腸骨への下行性で連鎖が確認され、 更に左TH5/6ファセット(腹側方向)と左腸骨(インフレア・前傾)に連鎖が大きくあったと感じた。

 治療においては、TH5/6のファセットの動き(腹側へ)を出して行くと、腰背部の張り・痛みが楽になるとの訴えがあり、 下肢へと連鎖の波及もその後に見られた。立位にてストラテジー評価にて治療効果を確認し左側方にスムースに行くことが見られたので、 治療を終了した。
問診で確認すると、立位で左回旋が優位な状態での台所の仕事など家事をすることが多いとのことで、 お客さんが来ていつも以上にその動作が多くなりストレスになったのではないか推測した。
その後、1週間後に受診で来られていたが、腰背部の痛みの訴えはなかった。



川越 寿織(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第20回】

足部の機能運動学 2

足部内在筋の機能(フォースカップル) 運動時の筋活動を評価するにあたっては、 筋単独の活動とその関節運動のみを見ていては機能的な評価を行うことはできません。 足部運動においては特に 5 層からなる各筋と足底腱膜をはじめとした結合組織における 相互関係・協調作用を理解することが重要です。 ここでは、一例として足部内在筋の協調作用(フォースカップル)について説明します。


1、足底方形筋と長趾屈筋
長趾屈筋は、足趾の屈曲を行う筋ですが、この筋は長いレバーアームをもち足関節、斜中足根関節軸に対して ほぼ垂直に走行するため、強力な足関節底屈と中足根関節回外を起こします。 この筋の足底面の走行は、内果方向から斜めに進行し、リスフラン関節付近で走行角度を変えて 中足骨と並行し足趾に向かいます。 この筋が単独で収縮すると、純粋に足趾屈曲には作用することはできず、 前述の通り足関節底屈と中足根関節 回外方向に作用します。これを補正するように働くのが足底方形筋です。 足底方形筋は長趾屈筋腱に付着をもちます。この筋の機能不全がある場合、足趾の屈曲よりも近位の足部運動が強調されます。


2、骨間筋・虫様筋と足趾屈筋群
歩行時など前足部での支持を行う場合、中足骨頭が水平面上に並列となり地面を押す、 いわゆる底屈をする必要があります。 荷重がかかれば同等の床半力を受けることになり、 その半力をうけとめることが荷重支持には必要となります。 この時に働く主な筋は、 長腓骨筋、骨間筋、虫様筋です。足趾の屈曲も荷重支持には関与しますが、 十分な足趾屈曲の作用をもたらすためにも前述の筋が適切に機能することが求められます。

第一列の中足骨を底屈位に保持するのは長腓骨筋の働きが大きいですが、 第 2~5 趾においては骨間筋と虫様筋がその役目をします。 両方とも横中足趾節関節(MP 関節)の関節運動軸よりも下面を走行し、 骨間筋は基節骨近位縁、虫様筋は横趾節関節(IP 関節の背側 を通り末節背面に付着します。 これにより中足骨骨頭を底面に引き下げる(底屈させる)作用をもちます。 また、この筋の作用がなければ、指で踏ん張るような状況において足趾屈筋群が働いても、 MP 関節も大きく屈曲し床面を捉えること ができません。 足趾での支持を機能的に行うためには骨間筋・虫様筋との協働が重要です。


足部機能の理解に向けて 二足歩行をする人間において、足部は支持機構の土台であり、 また力学的伝達の唯一の接点でもあります。 27 個の骨と 5 層構造の筋をはじめ複雑な構造とたくさんの役割を果たすこの足部は、 全身に影響を与えると同時に全身からの影響 を受けて最終的な運動の仕方が決まる部位です。
インソールやテーピングなどで単に固定し、外力をもって安定性を高めるだけでなく、 本来の足部機能が発揮しやすい環境を提供す ると共に足部機能を高めるためには過保護にしない環境での足の使用も重要です。 5 層構造の筋の大半は、いわゆるインナーマッスルです。つまり随意的な収縮活動よりも 先行的かつ協調的な自動収縮が求められる 筋が多いということです。
マルアライメントを引き起こす要因を全身から評価し、コントロールできる範囲内で 足部機能を高めるために様々な環境設定での足 底筋トレーニング、 他関節とのコーディネーショントレーニングを実施していくことが求められます。



栗山 努(株式会社アール・ケア アール・ケアコンディショニングセンター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第19回】

足部の機能運動学 1

足部へのアプローチの課題(理学療法において)

◯足部機能に関する教育・学習が十分になされておらず、そのため運動療法による介入が乏しい。
◯マルアライメントに対するアプローチがインソールとテーピングに偏っており、かつ補装具の作成などに理学療法士が関与する機会が減少している。
◯日本のTh活文化においては、屋内において靴を脱ぐため、靴やインソールなどによる効果は出しにくい。


一般的な動作と足関節の運動 まず、足部運動の基本的な理解としゃがみ込みや爪先立ちといった 一般的な動作時の足部運動を確認したいと思います。 足関節の可動域は一般的に底屈45°、背屈は25°と言われていますが、 しゃがみ動作が多いアジア圏では40°を超える可動性をもつ場合も少なくないと言われています。

底背屈は距腿関節でおこる運動ですが、距骨の運動には踵骨との関節である距骨下関節の運動の影響を受けます。 オープンな運動であればその影響も少ないですが、荷重位などクローズな運動では大きく影響されます。 荷重時の踵骨やショパール関節の過回内は距腿関節のアライメントを崩し、 可動域制限を起こすと共に下腿(脛骨)の内旋そして大 腿骨の内旋を連鎖的に生じます。

足関節背屈制限がおきれば前方への荷重移動は困難になります。また下腿内旋により、 いわゆる KNEE IN の状態となり股関節も内 転内旋が生じます。 この結果、膝には捻転のメカニカルストレスがかかると共に大腿四頭筋など膝関節伸展筋の張力は 真っ直ぐ効率的な伝達ができなくなります。立ち上がり動作では足関節においても底屈筋の活動により 足底で地面を押す働きがおこる必要がありますが、これも足根骨のアライメント不良は底屈運動が阻害され十分な支持ができません。


足部の主な関節と運動における解剖学的特性

1、距骨下関節
距骨下関節は、距骨と踵骨の間にある関節で、2つときに3つの関節面をもっています。 回内外の可動域全体を通じて運動は後方及 び外側距踵靭帯、骨間距踵靭帯により制動されています。 距骨下関節面の形状は個人差が大きく、運動軸(関節軸)の位置も横断面で「約 20°~約 70°」、 矢状面で「約 5°~約 50°」の範囲 で個人差が見られます。 距骨下関節の回内外は下腿の内外旋に連鎖します。運動軸が両面において 45°にある場合、 後足部の運動と下腿の回旋は 1:1 の比 率で起こります。しかし、運動軸が横断面において 70°傾いていたとしたら比率は変わり、下腿の回旋運動は後足部の運動より大きくみられるようになります。

また、この距骨下関節の回内は、距骨と中足骨を末梢方向に前方移動させます。 一般的に踵骨の回内10°毎に距骨は前方に約 1.5mm 転移すると言われており、 過度の距骨下関節回内は、足底腱膜と前足部軟部組織を繰り返し伸長することで損傷し、 足底腱膜炎をはじめMP関節滑液包炎や足底腱膜付着部の骨棘形成を生ずる可能性があります。

2、横足根関節(ショパール関節)
横足根関節は、距舟関節と踵立方関節との間にある関節で、 長軸と斜軸の二つの関節軸をもち、3平面運動が見られます。 斜軸は、横断面に対して約 52°、矢状面に対して 57°傾斜し、長軸は、横断面に対して約 15°、 矢状面に対して約 9°傾斜しています。 斜中足根関節軸は、矢状面と横断面にて大きな可動性をもちますが(背屈・底屈、外転・内転)、 前額面の運動(回内・回外)の可動 性が低いです。 それに対して長中足根関節軸は、矢状面と横断面の傾斜が少ないため、ほぼ純粋な前額面上の運動を行います。

距骨下関節の回外は、中足根関節長軸での回内と斜軸での底屈・内転を起こし、第 1 列(母趾)の可動性を減少させます。 また、足関節を底屈方向に誘導すると共に遠位脛腓関節の離開を制動します(腓骨は内旋・下制)。 距骨下関節の回内は、中足根関節長軸での回外と斜軸での背屈・外転を起こし、第 1 列(母趾)の可動性を増大させます。 また、足関節を背屈方向に誘導すると共に遠位脛腓関節を離開します(腓骨は外旋・挙上)。

関節運動軸は個人差が大きいと共に臨床上で計測することは困難です。 つまり、フィジオ運動連鎖アプローチでも重視している通り、 関節運動を細かく触診し、左右左の有無を確認すると共に動作の中でアプローチの反応を見ることが求められると言えます。


栗山 努(株式会社アール・ケア アール・ケアコンディショニングセンター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第18回】

運動連鎖アプローチ®を用いた治療展開 ~大腰筋に着目して~

 腸腰筋は腸骨筋、大腰筋に大別され、作用は股関節の屈曲、腰椎の前弯とされている。 運動連鎖アプローチ®における腸腰筋の役割は、腸骨のインフレア(内側腸骨)や腰方形筋と連動して骨盤の安定性に関与している。 また、腰椎アライメントを保ち、機能的な身体軸を作るための主要筋としての役割など多岐にわたる。 中でも大腰筋は解剖学的に前方・後方繊維に分かれており、前方は股関節屈曲作用、後方は体幹伸展作用とされている。

運動連鎖アプローチ®における腸腰筋評価とトレーニングは多種多様であり、基本となる運動として次のようなものがある。(図1)



図1 股関節屈曲、やや内旋位とし骨盤の中間位を保持する。
下肢挙上位から負荷抵抗をかけて保持能力を観察する。


次に腸腰筋トレーニングとして、段階的に①→②→③の順番で難易度を高くしていくと効果的である。




大野木 翔一(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第17回】

肩甲帯の姿勢制御における役割と運動連鎖

 運動連鎖とは一般的には足からの上行性運動連鎖であり、下降性運動連鎖とは頭頸部の影響が、 下肢に波及していくことを指します。上肢肩甲帯は関節運動学的には肩関節の構成帯としての機能に注目されることが多いですが、 ロコモテイブな観点からはモーメントアームとしての作用を有します。つまり、プロペラのように手を振ることで、 身体内に回転モーメントを発生させ、相拮抗する力を身体内に作り出します。この慣性などの外部からの外乱に対して、 バランスをとれることこそが安定であり、移動能力の向上と活動の幅を広げてくれることになるのです。

 身体重心に生じた受動的および能動的な外力に対する運動戦略で代表されるものに股関節戦略、 足関節戦略といったものがあります。より外力が大きくなると転倒予防のためにステッピング反応となりますが、 いずれにしても重心移動に伴う支持基底面を広げるコントロール反応といえます。しかし高齢者では様々な要因により 上記の運動戦略能力が低下することで脊柱-膝による代償動作、つまりhip-spine syndromeといわれるような重心を下げる 運動戦略を選択されることがとても多いです。重心を下げることで確かに物理的には安定しますが、 一度バランスを崩すと転倒予防のための運動戦略が出現しにくくなります。本来骨盤帯や胸郭は頭頚部を安定させるための 土台として機能しますが、より脊柱-膝の屈曲代償が強くなると頭部前方位など、身体各部位を前後に配置する 重みを利用した戦略などを用いるようになります。

 また肩甲帯は頚椎運動とも密接な連鎖反応があります。頸椎回旋に伴い、通常回旋側の肩甲骨が内転、 反対側は外転もしくは不動の傾向がありますが、それとは逆に回旋側の肩甲骨が外転してしまうことがあります(図1)。



そうすると、頸部回旋にともない、肩甲骨が近づくことになり、頸椎に過度な捩れが生じ、 肩甲骨や肩関節に痛みや違和感が生じやすくなります。結果的に上部平衡系にも影響がでることで、 姿勢制御としての機能低下に繋がります。


西住 諒(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)




【第16回】

運動連鎖アプローチ®における上部平衡系とは?

 上部平衡系とは運動連鎖アプローチ®における身体機能の原理原則となるべきコンテンツです。 肩甲骨の重要性は姿勢制御においても明らかであり、この肩甲骨のアライメントと可動性が抗重力下での立位、 歩行に大きく影響を及ぼします。姿勢制御においては頭一上肢一体幹のHAT戦略と骨盤戦略(動的平衡)にわけて説明されています。 骨盤戦略は主に立ち直り反応としての姿勢制御であり、動的な平衡とされる意味はバランス反応だからです。
決して固めているわけではなく、制御されているのです。かたやHAT戦略は上半身重心を基点とした、 どちらかというとバランス反応よりも腹圧などのシステムを活用しての固める姿勢制御となります。 ここに本来はパラシュート反応や保護伸展反応などの、さらに多様な姿勢制御機構が導入されていきます。

 ここでつま先立ちという動作を考えていきたいと思います。特にご高齢の方でよくみられる反応として、 つま先立ちに先行して両肩甲骨の挙上、頭部前方位の増強が起こり、頭頚部、上部体幹が一塊の剛体となることが多い印象です。
若い方では腰椎の前弯の増強、股関節伸展位による骨性支持により、カウンターウェイトを用いた反応が多くみられるでしょうか。 どちらにせよこれらの反応では不安定な状況下で動的な戦略ではなく、どちらかというと固定性の強い静的な戦略といえます。

 ではこのつま先立ちという動作の中で上部平衡系として肩甲骨はどのような働きを目指していくのか? つま先立ちは抗重力活動であり、肩甲骨はその逆となる縦重力活動、つまり挙上、外転ではなく下制、 内転による胸椎の伸展を促し、脊柱のS字カーブを出現させることが重要だと考えます。
高齢の方によく見られる肩甲骨の挙上は頭頚部と上部体幹を一塊にすることは逃避反応の一つと言えますが、 動きの質を考えると正しくありません。いかに推進器、平衡器として肩甲骨を活動させ、 頭頚部や上肢を自由に動ける身体作りをしていくかが、転倒予防にも繋がります。


西住 諒(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)




【第15回】

内在的運動連鎖を応用した実際の症例報告②

左肩関節周囲炎の診断を受けた50代男性


 1年ほど前に左肩周囲の疼痛と可動域制限を認め半年前に整形外科受診、上記診断を受けた症例。 仕事柄通院はできず、接骨院にて週一回加療しているが、その時気持ちいいだけで痛みは変わらず、 可動域は以前より低下しているとのこと。今回、知人からの紹介で運動連鎖アプローチ®による対応をさせていただく機会を得た。

 職業は会社員だが幹部で多忙な生活を送っており、動作制限やコントロールはなかなかできない現状。 接骨院では原因不明の大円筋の筋硬結による障害と言われているようで、とにかくここをほぐしてくれ、という訴えであった。

所見としては左肩関節肩峰下、上腕骨大結節に圧痛、自動運動の屈曲、外転とも90度前後にて肩峰から 三角筋中部繊維付近に疼痛を感じるとのこと。他動での特徴的可動域は、水平内転80度で肩関節前方につまり感に近い痛み、 2ndポジションは何とか可能だが、そこからの外旋は45度前後、内旋は30度前後、および外旋から内旋の0度通過時、 それぞれに肩峰から三角筋部に疼痛を訴える。更衣、整容動作は全て何らかの制限がある状態。

 内在的運動連鎖によるところの受動的パルペーション(以下触診)にて評価を進めると、左肩甲骨は右に比べ前傾かつ外転位、 肩甲骨に対して上腕骨は外旋位というアライメント不良が見られた。小円筋や大円筋など後方の軟部組織も強い筋硬結、圧痛を認めた。 症例①と同様に、治療部位の決定のために触診を進めた。左肩甲骨に触れモニタリングしながら、もう一方の手で脊柱を触れると、 肩甲骨の前傾かつ外転が正常の位置に戻ろうとする動きが感じられたので、脊柱を上下に分けて触ると、 より腰椎側である下方に反応が見られ、最終的には左足部にたどり着いた。

 問診にて確認すると、学生時代のスポーツでひどい左足関節捻挫を受傷していたことがわかった。 ここで立位姿勢を確認すると、重心は左寄りであるものの、上部体幹は左肩甲骨の前傾外転に伴って右回旋し、 下部体幹は左回旋していた。片脚立位は左の動揺が大きく、拇趾球側に荷重することが多く見受けられ、 肩甲帯でバランス補正を行う印象であり、足部が骨盤から体幹までの左右回旋での姿勢制御に関与していると推測できた。

 臥位になっていただき、足部のアライメントを触診にて確認すると、距骨が下腿に対して前内側に偏移していることがわかった。 また足関節周囲筋の筋力低下も認めた。そこで距腿関節の正常化を誘導しながら左足関節底背屈運動を自動介助で行い、 その後不安定なクッションの上に左下肢を乗せて部分荷重し、水平を保つエクササイズを指導したところ、各評価項目の改善が見られ、 自動運動での屈曲、外転も140度前後まで改善した。

このように、触診を用いることで、治療方針をスムーズに組み立てることの一助となる。


小林 伸二(金澤病院 理学療法士)




【第14回】

内在的運動連鎖を応用した実際の症例報告①

右膝内側半月板損傷の診断を受けた50代女性


 2年ほど前に関節水腫と立ちしゃがみの動作時痛を訴え整形外科受診、 上記診断を受け、関節穿刺により処置するが一時的な緩解であったため、 独断で弾性包帯固定をしばらく行い水腫は軽減するものの、立ち上がり時、 体幹の回旋が伴う特定の動作にてクリックと疼痛が残存。現在は独自の運動などで何とかやり過ごしているが、 根本的な解決に至らず、どこに行ったら良いか、何をしたらよいか迷っている中で、 知人からの紹介で運動連鎖アプローチ®による対応をさせていただく機会を得た。

 職業は小学校教員で多忙な生活を送っており、動作制限はなかなかできない現状。 所見としては右内側半月板前縁に圧痛、膝関節完全伸展、完全屈曲にて同部位に疼痛出現。

 内在的運動連鎖によるところの受動的パルペーション(以下触診)にて評価を進めると、 右大腿に対して下腿が内旋、左大腿に対して下腿が外旋しており、両足部に対して大腿より上が 右回旋していることが想定された。問診にて確認すると教壇で立っているときも、 自宅でテレビなどを観るときも体幹が右方向に回旋していることが多いとのこと。 立位にて重心を確認すると疼痛側の右に身体重心が偏り、肩甲帯も右が下降し相対的に体幹が右回旋している。 立ち上がり動作も右大腿遠位に上肢で支持して立ち上がるが、重心は動作を通して右に偏っており、 何らかの理由で以前から右寄りの身体重心がこの方の身体特性となっていることが推測できた。

 治療部位の決定においても触診を用い、右下腿に手を置きモニタリングしながら、 もう一方の手で身体各部位を触り、右下腿が正中位に近づく動きを感じる部位を探していくと、 胸椎中位、棘突起付近を触れるときに右下腿に反応があることが分かった。胸椎に視点を移し、 棘突起を左右に動かすように確認すると、Th5/6を起点として上下いくつかの胸椎が右回旋し、 かつ動きが硬いことが分かり、ご本人に体幹の回旋を自動で動かしていただいても左回旋がしにくいとの訴えがあった。

 そこで、Th5/6を支点としたレバーアームである上肢の動きを伴った体幹左回旋ストレッチを 二種類ほど指導させていただいたところ、大腿下腿のアライメントが整い、圧痛や可動域も改善、 姿勢と立ち上がり動作の正中化が見られ、上肢の支持がなくても楽に立てるとの感想をいただけた。 このように、触診を用いることで、治療方針をスムーズに組み立てることの一助となる。


小林 伸二(金澤病院 理学療法士)




【第13回】

運動連鎖アプローチ® ~インナーマッスルついて~

今回は、運動連鎖アプローチ®で行っているインナーマッスルの促通方法について説明していきたいと思う。

筋肉には大きく分けてインナーマッスルとアウターマッスルがある。
インナーマッスルとは、身体の内側に近い筋肉の事で、アウターマッスルとは身体の外側に近い筋肉の事である。 インナーマッスルは、能動的に働く際、アウターマッスルに先行して働く事が多く、 その働きによりアウターマッスルは、強く大きな筋機能を発揮する事が出来る。

インナーマッスルの促通方法の三大原則
①Assist(介助)
②Slow(低速)
③Middle range(中間可動域)



これは、様々なインナーマッスルの促通としても使えるので是非試してもらいたい。
アウターマッスルが過活動しない、Middle range(以下MR)で、姿勢制御や運動速度が変わらないように、 インナーマッスルをゆっくり(Slow)と他動的に動かし(Assist)ていく。

では具体的に鎖骨下筋に絞って考えていきたい。鎖骨下筋は、第一肋骨と鎖骨に起始・停止部を持つ。 鎖骨を前下方に誘導する働きにより、胸骨に安定させる働きをするインナーマッスルといえる。 鎖骨下筋の上には、アウターマッスルである大胸筋が被さっており、直接的に触れる事は出来ない。 まず、大胸筋を短縮域に持っていき、鎖骨下筋のパルペーションを行う。上肢をMRで内外転しながら、 運動速度や姿勢制御が変わるところ、パルペーションしている鎖骨下筋の収縮が感じられない可動域(Range)を確認する。
次に、再び上肢を内外転しながら、大胸筋が過活動しないMRで、鎖骨下筋をパルぺーションしながら ゆっくり(Slow)と他動的に動かし(Assist)ていく。
全可動域にわたり、同じ速度で、鎖骨下筋の安定している収縮を感じる事が出来たら、促通出来たと言えるだろう。 可動域の拡大が得られるだけでなく、大胸筋の過活動の軽減や機能的な姿勢制御に肩甲骨が参加してくれるだろう。

肩甲胸郭関節周囲には、インナーマッスルの役割を果たしている筋肉として、肩甲舌骨筋や肩甲挙筋、肩甲下筋など様々あるが、 同じような促通効果が期待出来るので是非試してもらいたい。 インナーマッスルを促通する事は、セラピストの醍醐味といってもいいかもしれない。
運度連鎖アプローチ®では、「観察的運動連鎖」と「内在的運動連鎖」を臨床で培った目とパルペーションで解読し、 骨関節や筋肉、また筋膜を含む膜系や情動など、ミクロからマクロまで様々な評価やアプローチを行っている。
今回は、インナーマッスルである鎖骨下筋にフォーカスを当てて説明を行ってきたが、これはほんの一部であり、 興味を持たれた方は、運動連鎖をもっと深く学んでもらえたらと思う。


深山 慶介(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士))



【第12回】

運動連鎖アプローチ® ~パルペーションテクニック習得までの5つの道のり~②



前回の記事では、運動連鎖パルペーションテクニックを習得する上での基礎・基盤の練習法について記載した。

運動連鎖パルペーションテクニックはクライアントの変化を刻一刻と追いながら、 仮説・検証・治療・予後予測が四位一体となった万能アプローチだ。 加えて、他の治療法と干渉することがないため、今後あなたが様々な治療法を学んでいく上で、 体の理解と技術の向上に相乗効果をもたらすテクニックでもある。

そのため、確実に運動連鎖パルペーションテクニックを習得するために、 前回の記事をご覧になっていない方は是非読んでいただき、手順に沿って効率的に習得して頂ければと思う。
今回は、さらに高度な練習法を解説する。




今回の応用編では、上記③~⑤を扱う。 本題に入る前に、②までの課題をクリアしておこう。 片手ずつ別部位を触ってそれぞれの皮膚・筋膜の動きを触知でき、 かつ、操作側とモニタリング側に片手ずつ役割分担をする。 操作側で行った介入がモニタリング側にどのように反応するのか? その因果関係がわかるようになっていることが必要である。

上記の課題がクリアできている方は本題の応用編に進もう!




手順②までの課題をクリアし、臨床で盛んに使うようになると、 皮膚・筋膜に対しての感受性が上がりすぎる。 そのため、物体を触っても皮膚・筋膜が動いているように感じてしまうことがある。 これは、自分自身の皮膚・筋膜の動きを物体を通して感じていることになるが、 本来、物体は動くものではないため、感知してしまっているのは誤作動だ。 上がりすぎた感受性を適量にまで下げて調整することがこのステップの課題である。

訓練方法は、物体などを触った時に自分の皮膚・筋膜を感知しないように意識を向けるだけだ。 これが出来るようになると、手から入ってくる情報を取捨選択できる能力がつけられる。 自分と相手と物体を、情報を切り分けて触り分ける事が出来るので、他者の手を介して触診した時にも、 対象とする皮膚・筋膜の動きを触診する事が出来るようになるのだ。 講習会でインストラクターが受講者の手の上から触診してアドバイスをしているのは、 この能力が備わっているから出来ることなのだ!




今までの触診の時の手の使い方は、主に指先は使わず、手のひらで触診をしてきた。 今度は、手のひらの中でも、具体的にどの部位が詳細な治療点になるのか? 組織の深さと線維まで細かく評価・治療できる能力をつけていく。

訓練方法は、今まで手のひらで触診していたことを指先を使って触診できるように練習することだ。 ここまでのステップに進んでいる方はさほど難しくない課題だろう。
『手のひらで触知した組織』と『指先で触知した組織』の層や線維に違いがあると、 触診結果が変わってきてしまうので、手のひらと指先、それぞれで触診した時に整合性が取れているように練習しておこう。
これが出来るようになると、組織そのものの変性や可逆性が評価できるようになるため、予後予測に役立つぞ!




運動連鎖アプローチの神髄はこのステップにある。 今までの静的なパルペーションから、動的なパルペーションへと移行しよう!

今まで訓練してきた①~④のステップを駆使して、クライアントの身体活動場面に応じた 徒手療法と運動療法を同時並行して治療・介入を行っていこう。
基本となる介入方法は変わらないものの、動的になることでより複合したアプローチを求められるが、 応用の幅は無限大になり、アプローチのカスタム性が非常に高くなる。 また、新たな運動連鎖の法則を独自で開発することも可能になるため、臨床の楽しさも倍増することだろう。




2回にわたって運動連鎖アプローチ『パルペーションテクニック習得までの5つの道のり』を解説してきた。

この技術は、運動連鎖アプローチ®創始者の山本が、理学療法だけでなく各種整体法や東洋医学、 フィットネスなどの知識を融合した、全く新しい包括的なアプローチ方法である。 どの業界の健康法や治療法にも適応できるこのパルペーションテクニックを習得することは、 あなたのセラピスト人生にとっての財産となるだろう。

是非、本記事を読んだあなたには効率的に習得して頂き、よりよいセラピスト人生と、 クライアントをより最善へと導ける一助となれれば幸いである。


高木 謙太郎(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)/鍼灸師/QOLdesign株式会社 代表取締役)



【第11回】

運動連鎖アプローチ® ~パルペーションテクニック習得までの5つの道のり~①



運動連鎖アプローチ®の基盤となる内在的運動連鎖を評価する上で習得しておきたい技術がパルペーションテクニックだ。

パルペーションテクニックを習得することが出来れば、格段に治療技術が向上する。 加えて、他の治療法と干渉することがなく変幻自在な運動連鎖パルペーションテクニックは、 今後あなたが様々な治療法を学んでいく上で、体の理解と技術の向上に相乗効果をもたらすテクニックであるため、 是非とも習得して頂きたい技術だ。

そこで今回は、運動連鎖パルペーションテクニックを習得するまでのガイドラインとして、 自身の経験を交えながら習得までの道のりを5つに分けて紹介する。




上記の5つの段階に沿って訓練を積むことで、スムーズにパルペーションテクニックを習得することが出来る。 いきなり高度なテクニックを行うのではなく、個人の習熟度に合わせてマイペースに取り組む事をオススメする。

習得までの期間は個人差があるが、筆者は試行錯誤しながら約2年かけた。 パルペーションテクニックを習得するまでの目安にして頂ければ幸いである。

それでは、以降より本題に入る。




運動連鎖アプローチ®の特徴である内在的運動連鎖。 そのために必要な触診法(パルペーションテクニック)を会得するための第一歩は、 両手で同一部位を触診し、皮膚・筋膜の動きを触知できるようになることから始まる。

以下に練習法を記載するので、一緒に行って頂きたい。
① 片側の大腿を左右から両手で触る。指先の力は抜いて、手のひらで行う。
② 同質・同圧で最大圧迫する。
③ 圧迫した両手の力を徐々に抜いていく。
④ 自然と触診している組織が(勝手に)動くような感覚を感じる。(右左の触診部位はそれぞれが独立して不規則に動く。)

ここまでが第一関門だ。
次のステップは、
① 組織の動きを遮ることなく追随していく。
② 組織の動きが大きくなったり小さくなったりするのを認知できる。
③ 圧迫の強さ(組織の層)を変えても同じように感じることができる。

ここまで来れば、臨床で使えるようになるのはもうすぐ!
次は、臨床で評価・治療として使えるようになるためのステップへと進むぞ!




運動連鎖アプローチ®では、片手をモニタリング側、片手を施術側と役割分担をして内在的運動連鎖の評価および治療を行う。 役割分担をすることによって、評価と治療を同時並行する事ができるとともに、常に効果検証をしながら治療が行えるため、 仮説・検証・予後予測の能力が格段に上がる。

ぜひ、もう一歩踏み込んでパルペーションテクニックを修得し、刻一刻と変わるクライアントの変化を的確にキャッチしつつ、 効果的な治療が行えるように訓練して頂きたい。

ステップ2の訓練方法は、ステップ1で両手で訓練した内容を片手で行うことから始まる。
① 片手で組織(皮膚・筋膜)の動きを触知できる。(右手のみ、左手のみで訓練をする)。
② 右手と左手は別部位を触り、それぞれの組織(皮膚・筋膜)の動きを別々に認知できる。

ここまで出来るようになったら、いよいよ治療のための訓練へと入る。
① クライアントの後方より、左右の肩甲骨を頭側から触り、肩甲骨上部の組織の動きを確認する。
② 組織の動きやすい側に関節運動は導かれる傾向のため、それが是正されるように、片方の手だけで是正方向へ修正を加える。その際にもう一方の手で変化が現れるか確認する。
③ 片手で是正した際に、もう一方の手も是正される量と質が大きい方が、是正ポイントの組織や関節の動きが原因となってもう一方の組織や関節に影響を与えている、因果関係が評価できるとともに、治療点を導き出すことが出来る。


今回の記事ではパルペーションテクニックを修得する上での基礎・基盤の訓練内容をお伝えした。
ここまでくれば、パルペーションテクニックの基盤と評価・治療の概要は理解されつつあると思う。 各セラピストが、クライアントが抱える問題に沿って応用しながら、パルペーションテクニックを 応用しつつスキルアップを図って頂きたい。

次回はさらにステップアップをした応用編をお伝えする。
あなたのさらなるスキルアップの一助になれれば幸いである。


高木 謙太郎(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)/鍼灸師/QOLdesign株式会社 代表取締役)



【第10回】

運動連鎖アプローチ®とボディーワーク ~動作の質~


    運動連鎖アプローチ®における動作観察を「運動連鎖アプローチ®と
    ボディーワーク~ボディーワークの概念~」の稿でも取り上げたクランチを例に視ていく。

    体幹トレーニングでよく挙げられるクランチは「腹筋を鍛える」ために選択されている。
    重力に反して上体を持ち上げることで、腹筋群に負荷がかかる。(図1)単純な動作ではあるが、 指導者側の意識や注意によって、効果は変わってくる。

    図2は、頚部の屈曲のみ行われている状態。
    図3は、骨盤の後傾とともに股関節の屈曲が起きてしまっている状態である。

    それぞれ代償動作が出ている状態ではあるが、仮に見逃していたとしたら、
    運動療法としての効果は下がってしまう。
    図2に至っては、体幹筋の発揮と共に骨盤帯の後傾が起きてしまうことに繋がるため、動作への応用が困難となる。

     では、どういったことに注意していくかを解説していく。
    運動連鎖アプローチ®という観点から着目している点は以下の通りである。

    ・頭部から胸椎全体にかけて徐々に屈曲できているか?
    ・Draw-in(ドローイン:腹直筋・外腹斜筋の収縮を抑制させ腹部を限りなく凹ませた状態)を維持できているか?
    ・骨盤帯は正中位を保てているか?
    ・下肢の角度変位は起きていないか?
    (拮抗筋の同時収縮が起きているか?)(図4)

さらに運動連鎖アプローチ®におけるパルペーションによって詳細に視ていくと、

・胸郭:胸椎屈曲に伴う、肋骨の下制・胸骨の尾側移動は起きているか?
・骨盤帯:寛骨は床と水平、仙骨は寛骨に対し後傾(カウンターニューテーション)しているか?
といった点も必要である。

筋肉の作用も着目していくと、さらに詳細に運動連鎖を分析することが可能である。 ただ、すべてを対象者に説明して、それを意識して行うことは困難であり、かえって混乱をきたすであろう。 そこで、動作の誘導として有効なのが、運動連鎖アプローチ®におけるパルペーションテクニックである。 対象者の動作を手で触って確認することで、動きの中で意識させる部位が絞られてくる。 また、運動中にセラピストがあらかじめ正しい動きに誘導しておくことで、自然に運動の連鎖が引き出されてくる。 対象者も意識する部位や動きのポイントが絞られることで、比較的簡単に目的の動作を遂行することができるのであろう。 クランチに限らず運動療法すべてにおいて、関節1つ1つを動かす視点を持つことで、同じ動作であっても得られる効果に違いが出てくる。

 以上、簡単ではあるが、ボディーワークと運動連鎖アプローチ®における関連性について解説した。 是非、これを機に運動連鎖アプローチ®の視点からボディーワークに興味を持って頂けると幸いである。


難波 志乃(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/GYROTONIC®・GYROKINESIS®認定トレーナー)



【第9回】

運動連鎖アプローチ®とボディーワーク ~ボディーワークの概念~


 今月は「ボディーワーク」の概念を通して「動作の質」というものについて考えていきたい。

 主にヒトの身体に働きかける手段を「ボディーワーク」と呼んでいるが、その定義を確立している文献は無い。 代表的なものに「ヨガ・ピラティス・太極拳」が挙げられ、 他にも「アレクサンダーテクニーク・Rolfing®(ロルフィング)・Yamuna®(ヤムナ)」等、特殊な機具や手技を用いるものもある。 ボディーワークの定義としてWikipediaには以下のような掲載があるが、語彙は不明である。

①治療や自己啓発の方法として、徒手・呼吸・エネルギーに関与する形で、身体に働きかけるもの。
②いわゆる「エネルギー領域」に働きかけて、姿勢改善や「身体知覚」のというよりは「ココロとカラダのつながり」の意識を高め健康増進を目指す。
(Wikipediaより)

 どのボディーワークにも共通していることは相手の身体に「気付き」を与える手段と捉えていることである。 インストラクターの指示に合わせて、身体運動やイメージ・特殊な器具等を使い、自己の身体バランス・柔軟性・硬度等を自身の 身体で感じていく。「身体運動‐身体イメージ‐呼吸‐リズム‐高揚感」が一体となることで、相手の身体能力をより引き出していくことが可能となる。

 ボディーワークの一つに、「GYROTONIC EXPANTION SYSTEM® (ジャイロトニック)」というものがある。 GYRO(ジャイロ)は、らせん・円・捻りという意味を持つラテン語である。脊柱を中心に頭部・上肢・下肢・手指にまで捻りを入れながら、 リズミカルに動くことに特徴を持っている。インストラクターの声かけで、考える暇を与えずひたすら動く。 1~2時間動き終わった後には、柔軟性と筋発揮が備わっているといったことが実感できる。

ジャイロキネシスで重要なポイントは「脊椎1つ1つを動かすこと」である。 それを可能にするために、身体重心・イメージ・呼吸・地面を押す力等を組み合わせて使っていく。 ここで考えなければならないことは、「患者にとって最適な運動形態が選択出来ているのだろうか?」ということである。

例えば、腹筋のエクササイズにおいては、その方法は多々存在するが、共通していることは体幹を屈曲させる動きであろう。 体幹の屈曲という動作を患者はどのように行っているのだろうか?ということを意識して観察してみると、個々人で違うことに気づく。

    ・下部胸椎の屈曲で行っている。
    ・頚椎の屈曲が強く、頸部筋群の活動が強い。
    ・骨盤帯の後傾が起こっている。
     他にも多々あるだろう。

    単に「体幹屈曲」といっても、その方法や代償は人によって様々だ。
    ただ、どれを取っても代償動作を見逃したままでは、弊害が生じてしまう。
    運動生理学的には、頭部・頸部・胸部・腰部が各々の総可動域は
    屈曲245°、伸展180°となる。(図1)。
    相手の体幹屈曲動作における、各部位の角度関係はどのようになっているのだろうか?
    実際に確認してみると個人差があり、個々のアプローチ方法も変わってくる。

 さらに言えば、頸部・胸部・腰部において、脊椎1つ1つは分離して動いていることが望ましい。 例えば、患者でよく視られる動きは、上部胸椎の動きが視られず下部胸椎の屈曲角度が過度になっている状態である。
同時に上部胸椎の代償として、下部頚椎の屈曲角度も過大となり、頚部筋緊張から頚部痛を訴える可能性が示唆される。
運動連鎖アプローチ®では、「動きを観るパルペーション」によって、 このような観察的運動連鎖では把握しきれない筋緊張や各関節の偏移をみている。(第1回「運動連鎖アプローチ®概論‐運動連鎖アプローチ的身体認識論」参照)

難波 志乃(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/GYROTONIC®・GYROKINESIS®認定トレーナー)



【第8回】

運動連鎖アプローチ®の応用 ~体幹について~


体幹に関しては、固定性・安定性 の2つの機能的な考え方があります。

〇固定性:動的な姿勢の中で制御ができない。

短縮性筋収縮もしくは等尺性筋収縮で踏ん張る。
衝撃に耐えるといった場面において発揮される。

〇安定性:動きの中でコントロールできることが重要になる。

腹筋群と背筋群の力がニュートラルの状態になり、腸腰筋や腰方形筋などインナーが働きやすい状態をつくる。

上記のような考え方があり、姿勢制御の幅を広げ歩行・動作の幅を広げていくためにも固定性と安定性のある体幹が必要になります。


 体幹は腹横筋や多裂筋などが重要な部分として挙げられますが、 脊柱のS字カーブも重要となってきます。 脊柱には24個の骨 を分節的に動かすことで柔軟性と、衝撃吸収能力が高まり、身体への負担が軽減するなどの効果があります。

 生理的な脊柱弯曲は、物体が力(作用)に対して、返ってくる力(反作用)を吸収・緩衝する働きを有しています。 ゆえに、頸椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯の3つの弯曲は、長軸上に加わる力を1/10まで吸収・緩衝することができます。 このことからも動きの少ない脊椎分節があると、その隣接部位への負担が増大する可能性があり、 分節性を高めていくためにも、脊椎の深層筋の促通が必要不可欠となります。

 脊椎カーブの動的安定性の評価として、頸椎・胸椎・腰椎を一つのカーブにし、両肩を頭側より尾側へ軽く押して、 その時の跳ね返ってくる弾力性を評価していきます。(図1)
全ての脊椎が屈曲させた状態を作り、全体が均等に曲がりあるか特に頚胸・胸腰移行部が均等に動くかに着目します。 弾力性があるとなると椎間を繋ぐ棘筋や多裂筋が働いてきて促通されてきます。 結果的に分節的に動きやすい深層筋が促通され柔軟性のあるカーブが生まれてきます。



脊柱の安定性が改善することで、姿勢制御における幅が広がり、 頭位を正中位に保持したままでの腰部・骨盤の動きが可能となってきます。

 さらに、体幹の動的安定性へとつなげていくためには、下肢との連鎖が不可欠となります。 正中重力線上に寄せていく力が重要になり、特に腸腰筋・大内転筋・後脛骨筋が働くことで 体幹との連動性が高まり動的安定性を高める軸の形成に繋がると考えます。 これら筋群が適度な筋緊張を伴うことで身体の正中重力線への修正として機能し、 自由度と汎用性のある身体のコントロールにつながってきます。(図2)




大前 卓也(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第7回】

運動連鎖アプローチ®の応用 ~運動器疾患と術後患者について~


 日本は超高齢社会を迎え運動器疾患が50歳以降急増しています。 年代別では、50歳代は40歳代の約1.7倍に増加、60歳代では2倍を超え、70歳代ではほぼ3倍に達します。 このことからも運動器疾患は中高年で顕在化することを示しています。

疾患としては、脊椎疾患、軟骨変性が本態である変形性膝関節症や変形性股関節症が多く、 高齢者の大腿骨頸部骨折はこの20年間で3倍に、人工膝関節手術はこの10年間で2.7倍に増加しています。 今後も有病率が増えてくる可能性があり、その予防と障害の回復・改善に向けても 運動連鎖アプローチ®で提唱しているパルペーションテクニックや考え方を取り入れていくことは有効であると考えています。


 変形性関節症では、機械的刺激などにより軟骨の変性・磨耗を生じ、また関節周囲を取り囲む滑膜の炎症が併発して 変性が加速、血管増生や神経線維の増生をともなう関節包の線維化が起こり痛みを感じやすくなります。 そして、痛みの状態が悪化し人工関節置換術に至るケースが多く見受けられます。


 手術をすることにより、術前に比べ術後は下肢アライメントに大きな変化がみられます。 例えば、変形性股関節症であれば、大腿骨頭は主に上外側、内側、軸方向の3通りの偏位を示し、 最も多いパターンは上外側への偏位で、大腿骨頭が外側に偏位することにより、 荷重部は内側に移行するため、内側の皮質の肥厚が生じる等の変化をきたします。

変形性膝関節症では、基本的に加齢に加え慢性的な機械的刺激が加わって変形をきたします。 その変形方向では内反膝と外販膝に別れ、大腿脛骨角(Femoro Tibial Angle:FTA)はの正常範囲は170~176度ですが、 内反膝では180度以上、外反膝では165度以下となります。手術を行うことによって、正常なアライメントに修正されます。

しかしながら、下肢の荷重面・重心位置が一夜にして修正されることで、起立・歩行など動的な姿勢制御において 再構築が必要な状況になってしまいます。結果、予測的な姿勢制御が損なわれ、動作時の恐怖感増悪、 全身の筋緊張などを高めることになります。これら状態によって運動の自由度、姿勢制御の幅をが減少し、 代償的な動作を使った戦略をとりやすくなることが考えられます。


 臨床においては、体幹や中殿筋・内転筋の機能不全によりハンモックにもたれかかるように 大腿筋膜張筋や腸脛靭帯を使用して身体を支え外側荷重となるケースがみられます。 このような状態になると身体の軸がぶれることで、体幹・足部・上肢など他部位への代償動作を助長してしまいます。

姿勢制御においても前額面上では、非対称となりやすく、左右方向への外乱により、 重心をコントロールできないなどの現象がみられます。これは、関節運動を誘導する筋の収縮が追い付かず、 関節運動が先行することで動的安定性が損なわれる状態といえます。


 受傷部位など局所へのアプローチにおいては、内在的運動連鎖の観点を加えていきます。 パルペーションテクニックにて身体・軟部組織の反応を確認しながら、運動方向を選定し運動療法に繋げて行きます。 より手術前後における身体イメージの差異を修正し、正しい身体運動に近づけることができるものと考えています。 例えば、下肢の粗大筋力向上を目的とした、キッキング という方法があります。 これは、臥位にて足底部から抵抗を加え、蹴ってもらいます。その時に、抵抗部位となる足底部(主に後足部)に圧を加え、 運動方向に応じて骨盤・体幹の代償反応をみます。

治療を進めていく上で、最終的には姿勢制御の幅を拡大させ、歩行・運動時の自由度を上げていくことが有効と考えています。 その過程として、患部局所へのアプローチとともに体幹や足部機能へのアプローチも重要となります。 それら局所と体幹・足部などの動きを、身体全体の姿勢制御に関連させていくことで身体の自由度を高めていきます。

次回術後の運動器疾患・姿勢制御にも影響を与えている体幹について解説します。


大前 卓也(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第6回】

脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用②


立位での姿勢制御評価を解説していきます。まず前額面と矢状面に分けます。

●前額面での姿勢制御


 前額面では図のように本人に左右に体重移動をしていただきます。その際の姿勢制御の評価を行います。 頭部、肩甲帯、上部体幹、下部体幹、骨盤、大腿、下腿、足部においてどのような姿勢制御が行われているかを評価していきます。 正常な運動連鎖では荷重側足部の回内・骨盤の内方腸骨(インフレア)・腰部の非荷重側への側屈・荷重側肩甲骨挙上・頭部の非荷重側への側屈がおこります。
 触診としては中臀筋の筋活動を指標とします。また、中殿筋の代償としての大腿筋膜筋の緊張や姿勢制御の左右差を確認します。

    片麻痺患者の前額面での姿勢制御の主な傾向として図1のような特徴がみられます。

    〇麻痺側への荷重時に骨盤の側方移動が強くなり、
     骨盤の上に体幹が乗らない。
    〇麻痺側への荷重時に肩甲帯が下制し、
     麻痺側体幹の遠心性収縮が困難となる。
    〇麻痺側への荷重時に後方荷重となり
     腸脛靭帯での筋膜性支持となる
    〇非麻痺側への荷重時に非麻痺側の遠心性収縮が困難となる。
    〇非麻痺側への荷重時に移動幅が少ない


●矢状面での姿勢制御


 矢状面では図2図3のように、患者の骨盤を前後に誘導しながら姿勢制御の評価を行います。 その際、頭部、肩甲帯、上部体幹、下部体幹、骨盤、大腿、下腿、足部においてどのような姿勢制御が行われているかを評価していきます。 特に矢状面では股関節・足関節の戦略を注意深く観察していきます。以上の姿勢制御評価によって得られた現象は、 歩行時の股関節・足関節の動きの戦略にも関わってきます。
脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用


    片麻痺患者の矢状面での姿勢制御の傾向として、図4の特徴がみられます。

    〇非麻痺側および麻痺側も両側股関節、
    足関節ストラテジーの協調性がない。
    〇非麻痺側優位での重心移動となる
    〇膝を曲げながら前後方への重心移動を行う。


●姿勢制御の評価を歩行へ繋げる


はじめは正中での前額面・矢状面に分けて評価を行っていきますが、 徐々に左側の後方~前方を評価し左の踵接地から踵離地までの姿勢制御の評価を行い、 右側の後方~前方を評価し右の踵接地から踵離地までの姿勢制御の評価・治療を行っていくことで、 歩行の立脚期での姿勢制御の評価につながっていきます。今回は体幹・下肢を中心に述べましたが、上肢にも配慮をしながら行います。


引用文献)山本尚司:ロコモティブシンドロームを防ぐ姿勢制御の評価法.医道の日本.2013年8月号p86-92


樋口 明伸(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第5回】

脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用①


 中枢神経系に問題が生じると感覚受容器閾値の変化、姿勢緊張の問題(特に体幹・頭頚部)、 ひとつの情報(特に視覚)への固執が起きやすい。これは情報が「無い」「少ない」ことが問題なのではなく、 脳に上ってくる情報として質的に「異常」であることが問題となります。 そしてこれらのことは、代償的な過緊張状態を呈する非麻痺側にも生じ得ます。

 麻痺の回復における理論的背景にもなっている、脳の可塑性がDr.Nudoのリスザルの実験により発見され、 様々な実験及び研究により脳が変化していくことが確認されています。また、脳は発生学上、 外肺葉由来であり皮膚も同様であることからも、触診による感覚入力の有効性が示唆されます。

 また、「脳卒中ガイドライン2015」の中では、エビデンスとして積極的な離床、課題反復訓練、電気治療などの効果が示されており、 そこに、運動連鎖アプローチ®で提唱しているパルペーションテクニックを組み合わせることが有効であると考えています。

 脳卒中片麻痺患者は非麻痺側の上下肢においても、動作の遂行において困難を生じることが多くみられます。 これらは、姿勢コントロールの問題(対象へ近づくこと・対象から遠ざかること・ボディイメージ)、 手指の知覚情報(環境・対象物のもつ情報)、探索の問題によるものと考えます。


 姿勢制御はPreparatory  anticipatory postural adjustments (APA‘s)1)(pAPA’s)2)と Accompanying APA‘s(aAPA’s)3)に分けられます。
 神経生理学的には、抗重力的な活動における神経機構は腹内側系支配であり、 ①前皮質脊髄路②前庭脊髄路(バランスのための素早い活動と姿勢緊張の自律的変化を行い、 主に同側性に動いた時の頚部・体幹の伸展を誘導:立ち直り反応) 重心移動に強く関与。 ③網様体脊髄路(安定した姿勢で優位に働き、体幹の姿勢安定性を司る)があります。 そのため脳卒中片麻痺患者は非麻痺側の体幹機能も障害をうけることになり、動作困難性が起きやすくなります。 また、脳卒中患者では運動学習においても、課題の難易度、転移性、量、興味などに配慮をする必要性があります。

 脳卒中患者は上述の通り体幹機能が低下しており、立位歩行において体幹屈曲位・骨盤後傾位をとなりやすく、 中殿筋後部繊維のover useを引き起こします。そのため、立位及び立脚期に大腿筋膜張筋から腸脛靭帯にかけて、 寄りかかる戦略を用いやすくなります。また、臨床において観察される典型例として、麻痺側の足部では踵骨が内反しやすく、 非麻痺側では逆に偏平足傾向になります。

 次に、脳卒中患者において立位歩行に影響を及ぼしやすい、骨盤の評価について解説します。骨盤は下記の図1・図2のような可動性があり、後方より後上腸骨棘(PSIS)を触診し、骨盤の変位を評価していきます。また、評価時に腹式呼吸を同期させると骨盤の動きが拡張し動きが触知しやすくなります。 次回は、実際にどのように姿勢制御評価を行っていくのかを紹介していきます。
脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用
(運動連鎖道場資料 カパンジー機能解剖学より 改変)

1)anticipatory postural adjustments (APA):予測的な姿勢を調整するもので、先行性随伴姿勢調整と言われている。
2)Preparatory APA‘s(pAPA’s):準備的なAPAであり運動が起こる50~300ms前に起こるFeed Forward
3)Accompanying APA‘s(aAPA’s):不随意的なAPAであり運動が起こっているときに起こるFeed Back


樋口 明伸(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第4回】

運動連鎖アプローチ®概論―呼吸と運動連鎖<リズム運動と脳の賦活という視点から>―


 今回は呼吸と運動連鎖についてリズム運動と脳の賦活という視点から述べていきたい。
 呼吸は歩行運動や咀嚼運動と同様に中枢性パターン形成機構によるリズム運動の1つであり、 これが上行性網様体賦活系を刺激し、セロトニン神経が賦活され脳全体に投射される。セロトニンは ドーパミンやノルアドレナリンとともに働く脳内物質の一つで平常心や安定感に関わる。 また覚醒時には姿勢筋や抗重力筋に対して持続性緊張を与える効果が期待される。

 このセロトニン神経の賦活のための呼吸は漫然と行うものではなく、近年ヨガ、ピラティス、 ジャイロキネシスなどのボディワークで行われるように集中してリズムよく、持続的に行うことに効果があるとされる。 運動連鎖アプローチ® ではこのボディワークの要素を取り入れ、従来の理学療法の特色である 身体の使い方などの運動学的効果や脳の可塑性といった機能だけでなく、高揚感、充実感、 気持ちよさといった精神的な賦活をボディワークを通して促すという視点を併せ持っている。

 また理学療法では痛みにアプローチする場面も多々ある。セロトニンは痛みに対しても効果を発揮する。 痛みがある場合、呼吸は早く浅くなりノルアドレナリンが活性化している状態である。 その場合にもリズム呼吸を用いることにより、セロトニン神経が賦活されて扁桃体に作用し、 扁桃体に入力する情報、及び扁桃体から出力する情報のうち、不安や恐怖の感情を抑制するとされ、 痛みに伴う負の感情を減らすことができる。またセロトニンは下行性疼痛抑制系に関与し、 脳幹網様体から脊髄後角に作用することで痛みを抑制する効果もある。

 このように呼吸法を通じて姿勢や痛み、精神的なコントロールに作用をもたらすことが可能になる。 そして運動連鎖アプローチ® では、この呼吸法をいわゆる呼吸理学療法の視点だけでなく、 ボディワークの視点も含めた幅広い視点から理学療法と融合し、多角的な視点からのアプローチを行っていく。 興味がある方は是非一緒に運動連鎖アプローチ®を学んでいこう。


山岸 恵理子(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/呼吸療法認定士)



【第3回】

運動連鎖アプローチ®概論―呼吸と運動連鎖―


 人は1日に15,000回以上の呼吸を行う。フィジオ運動連鎖アプローチ協会では、呼吸を「運動連鎖の最小単位」と捉え、 1本1本の肋骨の変位を意味があるものとして臨床推論をしていく。
 呼吸は横隔膜及び外肋間筋の作用により胸郭の容積を変化させ、胸腔内圧が陰圧になることで惹起される。 この『胸郭』は柔軟性のある籠であり、姿勢や四肢の変化に影響を受けやすく、 全身の代償作用を有する。そのため呼吸を評価することにより、全身の代償としての胸郭という視点で 評価することができる。

 胸郭の代償作用の1つとして、頭蓋・顎関節由来の代償作用がある。運動連鎖アプローチ®では 上部平衡系と称するもので、頭蓋と頚部のアライメントにより胸郭の代償作用が生じる。 最も一般的な例としては頭部前突位による上部胸郭の後弯であろう。この姿勢では上部胸郭の可動性の 低下はさることながら、横隔膜の可動性も低下する。そのことにより、浅く早い呼吸が生じることとなる。

 2つ目に上肢の運動軸としての代償作用がある。肩甲骨は胸郭との間で肩甲胸郭関節を作り、 肩関節と体幹の連結を行うだけでなく、肩甲骨や肩関節周囲筋の働きにより平衡機能や呼吸機能にも関連する。 脳卒中片麻痺では肩甲骨のアライメントが変化しやすく、胸郭の左右非対称性が生じやすいため、 呼吸状態の左右不均衡が生じることとなる。

 3つ目に骨盤帯・下肢からの代償作用がある。骨盤帯は腰椎及び、腰方形筋や大腰筋その他の 腹筋群や背筋群により胸郭と連結している。肩甲骨と同様に平衡機能や呼吸機能とも関連する。 特に腰方形筋や大腰筋は横隔膜の後ろを通り、筋膜性の連結があるため呼吸との関連も深く、 下部胸郭の前後左右の非対称性につながり、呼吸状態の前後左右不均衡が生じることとなる。

 以上のように呼吸状態を評価することにより、四肢の機能や姿勢の影響を評価することができる。 ともすると各関節や部分での評価となってしまいがちだが、全身を1つのシステムとして評価することに 運動連鎖アプローチ® の意義があるように感じる。今回は呼吸、胸郭システムを中心に記した。 次回は、呼吸と運動連鎖をリズム運動・脳との関連いう視点から紐解いていきたい。


山岸 恵理子(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/呼吸療法認定士)



【第2回】

運動連鎖アプローチ®概論―内在的運動連鎖―


 フィジオ運動連鎖アプローチ協会では、運動連鎖という概念を、「観察的運動連鎖」と「内在的運動連鎖」という 2つの概念に分けて考えている。「観察的運動連鎖」とは理学療法士が得意とするところの視覚を通した動作分析に代表される。

 人体の骨関節においてはある程度一般化された体系があり(上行性運動連鎖や下行性運動連鎖など)、 そのため「観察的運動連鎖」では一つの関節の位置が決まれば生体力学的、人体構造学的法則により他の関節の位置まで 大まかに把握できるという利点がある。熟練により、歩行動作などの 分析においても視診のみにて動作の解釈が可能となる。

 「内在的運動連鎖」とは触覚(以後は触診)を通して、身体の運動連鎖を把握する。ここでは骨関節に限らず軟部組織、 特に皮膚やさらに筋膜まで含めた身体の表層部分の連鎖が重要となる。皮膚や筋膜などの軟部組織も やはり大きなネットワークがあることは、近年アナトミートレインや筋膜リリースなどの概念が紹介されるようになり、 理解しやすくなったといえる。
また古くは東洋医学の経絡などもある部分ではこの軟部組織の連鎖を診ているものと考えられる。

 「内在的運動連鎖」の最も大きな利点は、複雑な身体運動である歩行や走行、 またはスポーツ競技に特化した独特な動き(野球のバッティング、ゴルフのスィング動作など)も、 実際の動きを診ずとも、触診にて皮膚や筋膜の流れを追うことで動作分析することが可能である。

 これは軟部組織にはその人の身体情報が内包されていると考えるため、 皮膚や筋膜の動きの方向はその人の身体運用と密接に関わっているからである。 また、この皮膚や筋膜の動きが滞っていたり破たんした部位では“違和感”や“不快感”を感じる。 よって運動連鎖アプローチによりこの軟部組織の動きの質を改善することで、身体運動の動きの質も改善する。

 従来の触診はいわゆる解剖学的触診であり、主に骨・関節・筋肉などの解剖学的組織の把握や局所に直接物理的な刺激を 加えることが目的であったが、「内在的運動連鎖」で使用する触診は①受動的触診と②能動的触診の2つの触診方法があり、 それぞれは主に生体の変化と反応を診ること、そしてその反応を引出しつながりを誘導するところに、 従来の解剖学的触診との違いがある。

 ①受動的触診では相手の身体に触れた際にこちらからの働きかけを一切なくし、ただ黙って手を置くことにより、 相手から感じる皮膚や筋膜の情報を一方向的に受け取る。これは現時点での相手の身体アライメントを把握することに役立つ。

 ②能動的触診では相手の身体に触れた際、施術者がある方向に軟部組織を動かすことにより、相手の軟部組織の反応を受け取る。 たとえば肩甲骨の高さに左右差がある場合、どちらの肩甲骨が挙上、もしくは下制させたほうがよいか迷うことが多々あると思われる。 その際、右か左のいずれかの肩甲骨周囲の軟部組織を能動的に動かすことで、反対側に反応があるかどうかを確認し、 反応があった側を治療側と決定する。(右肩甲骨に触れた際、何かしら左肩甲骨に反応が生じる。 逆では何の反応も生じない場合、治療部位は右肩甲骨となる)。

 このように①受動的触診では相手の身体アライメントを把握する際に使用し、②能動的触診では治療的アプローチを行う際の、 施術方向や力加減、施術部位などの決定に使用される。

 以上で運動連鎖アプローチにおける「内在的運動連鎖」について述べてきたが、 運動連鎖の把握には視覚的に優位な場合と触覚に優位な場合とそれぞれに一長一短がある。 どちらが優れているとは言えず、どちらをも補完するような形は一つの理想形といえる。 しかし各々の施術者の優位な感覚や思考法があるため、各人が得意な診方を習得していくことが大事といえる。 触覚的な感覚が優れていると感じる方や視覚的な動作分析を苦手と感じる方は、 一度は運動連鎖アプローチの門を叩いてみることをお勧めする。


芹澤 誠(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)




【第1回】

運動連鎖アプローチ®概論―運動連鎖アプローチ的身体認識論―


 あらゆる治療方法には、それぞれ特有の身体観がある。例えば理学療法では人体の動きを関節運動や筋運動によって理解する身体観となることが多い。 また鍼灸では身体をツボという“点”を経絡という“線”で結んだ身体観によってとらえられる。

 カイロプラクティックでは脊柱を中心とした骨格構造に注目した身体観が一般的だと思われる。 他にも、脳神経を中心とした神経学的身体観、心理/認知的機能を中心とした認知神経科学的身体感、 感情変動を中心とした身体観、身体をエネルギー体としてとらえるエネルギー的身体観など、 治療家はそれぞれの治療家の寄って立つところの認識によりさまざまな身体観を持っている。

 運動連鎖アプローチ的身体観では、大前提として人の身体は解剖学的にも機能的にも様々な階層性(レイヤー)が 存在するという認識が不可欠となる。階層性とは人の身体は骨があり、骨同士で関節を作り、 筋膜で包まれた筋肉・靭帯・腱でつながり、その周りを血管・リンパ管がめぐり、脳神経を中心とした神経系で統制されている。 そしてそれらが皮膚という膜で全身が包まれている。

 さらに、それぞれはこの地球において重力という力の影響を受けながら、姿勢を保持するために互いに連携し合い平衡を保っている。 このような身体観において運動連鎖という言葉は、骨関節による運動のつながりを指すのみではなく、 身体を構成する全ての要素のつながりを運動連鎖アプローチでは運動連鎖と認識している。 この場合、身体内の連鎖を把握していくためには、身体における多様な側面の認識と、 それを触知する施術者の感覚が非常に重要となる。

 運動連鎖アプローチ代表の山本はこのような運動連鎖を一般的な運動連鎖に対して、“内在的運動連鎖”と呼んでいる。 運動連鎖アプローチの最も重要なテクニックである“触察(パルペーション)” つまり触診では、必ずどの組織へアプローチしているのかをはっきりと意識しながら行う。

 触れる場所は当然体表となるが、体表を触れながら、施術者の認識は骨・筋、筋膜・神経・血管など 必要な箇所にラジオの電波をキャッチするようなごとくチューニングを行う。 このため、運動連鎖アプローチ的身体観では場面や状況によって、施術者は目の前のクライアントが、 骨関節からのアプローチが有効なのか、もしくは皮膚・筋・筋膜など表層のアプローチが有効なのか、 さらには臥位か座位か立位のいずれの姿勢反応が有効なのか、さまざまな条件に施術者の意識を変化させながら 触診を通じてモニターを行い(チューニング)、クライアントに対する身体観を変化させていくことが大事となる。 また、セラピストは、状況に応じた柔軟な思考が必要とされる。

次回は「内在的運動連鎖」について紹介したい。


芹澤 誠(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)