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スペシャルコンテンツ 記事

運動連鎖アプローチ
※運動連鎖アプローチ(R) はPKAAの登録商標です(登録第5597600号)
フィジオ運動連鎖アプローチ協会 代表 山本尚司



【第33回】

運動連鎖アプローチ®におけるアライメントの修正

運動連鎖アプローチ®では身体機能と身体イメージの融合により運動学習を促していくことを目標の一つとしています。 そのために局所の関節運動が抗重力下での全身の動きの質に反映しているか(全身に取り込まれているか)を一つの指標として パルペーション(触察)にて評価・分析・アプローチを展開してくことになります。 そのための具体的な方法として、私自身が臨床で留意しているポイントを以下でお伝えさせていただきます。

①「モビリティー(反応)を引き出す」

関節運動学的な最小単位である「微細なモビリティー(反応)」をあらゆる関係性 (左右・上下・前後、浅-深層、近位-遠位、身体軸など)の中で引き出し、 その反応を全身の繋がりに導いていきます。
局所の機能障害部位(関節の変位・不整合・違和感・痛み等)を モニタリングポイントとし同質同圧でパルペーションしながら関連部位(反応のある場所/アプローチポイント)を同定し、 アプローチポイントの刺激の量と質(方向・深さ・速さ・持続時間など)を調整しながら反応(モビリティー等の手の中の感覚)を 引き出して機能障害部位を解除(変位の修正)していきます(反応のある部位からアプローチ)。
微細なモビリティーを全身との関係性の中で引き出すことで生理的な筋緊張が働きやすい環境が整ってきます。
ここから更にアプローチポイントの促通刺激を同質同圧で探索していくことで原因と結果を明らかにしながら 全身のつながりへと誘導していきます(アプローチポイント/原因⇄モニタリングポイント/結果)。

②「正しいアライメントの方向に筋を作用させる」

ここでいう「正しい」とはいわゆる教科書的に見た目上の整った状態ではなく、 あくまで「その人なりの正常」つまりその人なりの釣り合いのとれた生理的筋緊張の状態をベースにした アライメント(neutral position/alignment)を基準にします。
関係性の中で反応が引き出されることで機能障害部位の軟部組織は自らを再調整し生理的筋緊張により 正しいアライメントへといざないます(機能的・生理的位置へ戻る)。
正しいアライメントとはその人なりのバランスのとれた状態、感覚入力が全身に取り込まれやすい状態となります。 ここからアプローチポイントとモニタリングポイントを筋の作用でリンクさせるという視点で段階的に 他動運動から能動的な動きへとアプローチを展開していきます。 筋肉の生理的筋緊張の作用よって関節・骨の滑らかな動きを誘導(muscle&bone)していきます(感覚入力による脳への働きかけ)。

③「抗重力下でのコントロール」

上記①②では主に背臥位ないし坐位の状態で相対的関係性の中でアライメントを修正し、 感覚入力が取り込まれやすい環境を整え能動的な運動へと展開してきました。
ここからさらに作り上げた新しいアライメント・身体環境を生かして動きの中で コントロールしながら指導していきます。
立位になってしまえば重力の影響を大きく受けるため 重心の位置を含めた荷重コントロール、荷重軸、動きの中でのコントロールの視点を持って 改善した効果の定着を図っていきます。
患者さん自身も自覚しやすいパフォーマンステストをしながら、 臥位・坐位での変位及び修正方向を参照にしつつも、改めて立位抗重力下でパルペーションによる 評価・アプローチを展開していきます。
反応をモニタリングしながらアプローチポイントの 階層性(皮膚・筋膜・筋肉・骨関節等どの層に対してのアプローチなのか)及び 治療する面(水平面・前額面・矢状面どの面に対してのアプローチなのか)を意識して 反応(左右バランスをもって振り幅が大きく正中に戻す能力)を引き出していきます。(上行性⇄下行性)

④「患者さんの気づきへの働きかけ」

運動連鎖アプローチ®では患者さん自身では普段意識できない体の感覚(脳:身体イメージ、身体表象)への 働きかけを行っていきます。
アプローチ中は適宜呼吸のしやすさ、快・不快、荷重感覚、筋感覚、滑らかな関節の動き等の「差」に気づいてもらいながら、 時にはneutral alignmentとは真逆の方向に誘導することでその違いをより鮮明に意識してもらうことで治療を展開していきます。
またパルペーションと臨床思考過程によって明らかになった原因と結果をもって現在抱えている機能障害の機序や生活動作との 関連性を丁寧に説明し納得していただくことで治癒機転を促していきます。
患者さんの自覚(気づき)を促すことで本人も自覚できるセルフエクササイズ、生活動作の中の動きに繋げていきます。 (身体イメージ⇄身体機能)

⑤「セラピストの意識」

視覚的には捉えられないあらゆる体の営みを明らかにする運動連鎖アプローチ®では、セラピストがどのような意識で、 どのような視点で触れるか、そこから何を感じ取り、どのように考えるか、 自分の中で階層性をもって取り組む姿勢を何よりも大切にします。
主観的感覚的なパルペーションとその解釈(原因と結果の分析)の繰り返しの作業をセラピスト自身が 意識的にコントロールして着実に積み上げていくことでパルペーションの感度・精度を上げ、 そしてリズムとテンポをもったアプローチの展開によってその人なりのバランスの取れた自由度と 汎用性の高い身体を目指していくことになります。(反応/感覚・知覚⇄臨床思考過程/認知)

運動連鎖アプローチ®におけるアライメントの修正とは上記の①~⑤までの過程を一つのパッケージとしてアプローチしていきます。 局所と全身との関係性をパルペーションよる反応を見極めながら明らかにし、身体機能と身体イメージの融合を図り、 患者さんと共に「まんべんなく・滑らか」な質的な動きを学習して活動・参加へと繋げていくことになります。

ひとそれぞれ学習のペースは違いますのであきらめずに楽しみながら皆様と進み続けていければと願っております。 私自身の中ではようやく運動連鎖道場の門が開かれた段階にあると思っており、 これからも天の氣に従って頭を低くして道を歩み続けていこうと思っております。



長田 賢哉(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第32回】

足部からの運動連鎖アプローチ®

臨床現場にて、「ここの反応は運動連鎖からなる」など「運動連鎖」というKeywordをよく耳にした。 私自身、運動連鎖についての理解が浅く、知識を深めたいと考えたことが運動連鎖道場参加へのきっかけであった。 道場での講義序盤に、頸部の屈伸の違いから足関節の底背屈角度が変化することを体験した。
運動連鎖は隣接している関節へ影響する程度にしか考えていなかった私は、 離れた関節から運動が波及してくるという体験をしたことで大きな衝撃をうけたことを今でも思い出す。 そこで学んだことを踏まえ、足部からの運動連鎖アプローチについて述べていく。

歩行に対してアプローチしていく際、足部は平衡機能や荷重バランスにおける重要な部位であり、 その働きとして後足部、中足部の安定性に関与するWindlass機構や足部の柔軟性に関与するTruss機構が知られている。

歩行においては、まず足底が着くことで感覚入力により床の環境を感知し運動連鎖が賦活される。 足底のメカノセプター分布では、Heel Contact:踵、Mid Stance:内外側縦アーチ、Heel Off:横アーチ、Toe Off:母趾が関与している。 それらからの反応に対して上行性に身体が連動し歩行の動作としてあらわれる。 その為、治療対象者の足底状態を知ることは必要であり、それに対するアプローチが必要である。

アプローチ方法として、足底をFM(前内側)、FL(前外側)、PM(後内側)、PL(後外側)の4分割に捉え、 どの位置に重心を移動した場合が不安定であるのか評価を行う必要がある。不安定な位置が予測できたら、 立位にてその部位に重心を留めることで感覚入力を高めるようアプローチを行うが、 注意することは静的に留めておくというわけではない。これは、立ち直り反応を喚起していくことにある。

身体移動の変化には立ち直り反応が必要であり、骨盤や上肢、頭頚部などが関与していることから、 まずは、立位にて重心が不安定な部位で留めた状態で、骨盤の引き上げを自動運動にて安定して行えるまで進める。 安定して可能となったら、骨盤の引き上げに上肢挙上の自動運動を加え行う。 安定して可能となったら頸部側屈の自動運動も加える。重要なことは、 歩行という単一の関節のみでなく複合的な運動のつながりから表現される動作に対し、 立ち直り反応を踏まえて複合した運動としてのアプローチをすることである。

動作は、タイミングなどのズレも運動連鎖の破綻を引き起こす一要因である。 その為、問題となっている部位の筋力訓練のみでなく、骨盤・股関節や頭頚部など各関節が歩行にどのように働くものなのか理解し、 それらに対する動作運動を含めたアプローチをする必要があると考える。



山崎 達彦(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第31回】

運動連鎖アプローチ® ~「安定」について考える~

初めに

 理学療法の臨床のなかで、「安定した動作」を機能改善の指標として聞くことや目にすることを多々経験する。 学生からの質問の中に「安定しているとは、どういう意味ですか?」と聞かれることも多い。
安定とは何を表し、どのような意味を含んでいるのか?

 私自身、理学療法を学び始めた当初は、漠然と「安定している」という表現を使っていました。
この記事を読んで下さっている治療者、理学療法士、治療者を目指している学生の中にも、 同じような課題に直面している人もいるかもしれません。運動連鎖アプローチ®を学ぶことで、 「安定」について改めて考える機会となり、そして自分なりの考えについて、ここに共有できればと思います。


安定とは

 一般的に安定とは、「激しい変化がなく物事が落ち着いた状態」と定義されています。 運動連鎖アプローチ®の概念において、安定とは自由度と汎用性があり、修正能力に長けていることを指します。
具体的な評価方法として、姿勢制御におけるストラテジー(戦略)評価を提唱しており、 立位にて前後左右に骨盤を揺らすことによって、矢状面/前額面での立ち直り反応や平衡反応を観察します。

 姿勢制御において動きの幅が狭くなっている場合、外乱に対する姿勢制御能力の低下が示唆され、 転倒リスクにつながってくるものと考えられます。
特に高齢者は姿勢制御の範囲が低下すると、 ローカルマッスルでの制御の低下に伴い、骨・関節に寄りかかるような戦略になることで、 変形性関節症を発生させてしまうリスクがあります。


自由度と汎用性

 一例として、立位保持が2分以上行うことが可能。片脚立位が可能。更に外見上、 動揺が少ないパーキンソン症候群を持つ対象者がいるとします。一般的に考えると安定していると言えます。

 しかしながら、姿勢制御評価を行った際にステッピング反応やホップ反応、パラシュート反応が起きない、 もしくは遅延している現象が見られる時は、姿勢バランスにおける修正能力が低下しています。

 つまり、立位保持、片脚立位といった静止した姿勢保持は可能であるが、 動作にともなう円滑な姿勢変換を行うことができないのです。
よって、姿勢は静的には安定しているが、 動的には自由度と汎用性が低下しているものと考えられます。


終わりに

 不安定な動きは運動連鎖の破綻、時に痛みや障害となって身体に現れます。観察から得られる運動連鎖、 触診から得られる内在的な運動連鎖を元に解決の糸口を探求し、対象者の満足度が向上する一助になれればと思います。

 今回、運動連鎖アプローチ®の概念の一部分を紹介しました。最後まで読んで下さった方の、 新たな視点となれば幸いです。
興味を持たれた方は、この運動連鎖アプローチ®︎を学んで頂ければ更に視野が広がると考えます。
また既に運動連鎖アプローチ®︎を学ばれている方にとっては、再考する機会として活用いただければと思います。



妻木 脩人(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第30回】

運動連鎖アプローチ®の臨床応用 ~右肩関節脱臼後の可動域制限と痛みに対して~

人間は重力に適応して楽に動きやすいように体を使っています。 長期間にわたる習慣や何らかの障害などをきっかけとして、運動の偏りもしくは特定パターンでの動作の固定化が起き、 それが機能、構造の変化や姿勢制御、運動範囲の偏りを生じます。 そして相互に影響しあって悪循環となって症状の慢性化をきたしていくことがしばしばみられます。
このような状態では、単純に局所の筋力低下や関節可動域制限などの機能障害にアプローチしても改善しないことが多くあります。 今回、怪我をきっかけとして長年、代償動作を用いて生活していた方に対して、 より身体の動きやすい使い方を促すことで改善をみた症例について報告します。


<症例紹介>

29歳男性。8年前に右肩関節を脱臼し、整復後、病院での運動療法等の治療は受けずに 自流で肩を動かして生活を送っていました。日常生活は自立しているが、右肩の挙上にて痛みと可動域制限があり、 今回リハビリテーション開始となりました。

右肩関節可動域制限(屈曲120°外転120°)と最終域での痛み、右肩屈曲、外転MMT4の筋力低下を認めました。 Sulcus sign(-) Anterior apprehension test(-) Posterior apprehension test(-)と肩関節の不安定性は認めませんでした。 Scapular assistance test(+)屈曲160°まで可動域の改善と痛みの軽減を認めました。

<状態把握>

座位で触察による状態把握では、右僧帽筋上部線維の緊張が高く、右肩挙上時、右肩甲骨の外転、後傾、上方回旋制限がみられました。 また右棘下筋の筋萎縮、右胸鎖乳突筋、肩甲舌骨筋の過緊張を認め、腰背部では右脊柱起立筋の過収縮と腹直筋の硬直、右腰部多裂筋の萎縮がみられました。 呼吸をみると、呼気時に下部肋骨が下制せず、腹直筋、外腹斜筋の過緊張がみられました。

Scapular assistance testの結果より、肩甲骨の後傾、上方回旋を補助することで右肩関節の症状の改善がみられたため、 肩甲骨の後傾、上方回旋の動きを促せるような運動連鎖を探っていったところ、僧帽筋、胸鎖乳突筋、 肩甲舌骨筋といった頚部の筋群の緊張を緩めることで肩甲骨の後傾、上方回旋が改善しました。 さらにそれらの筋群の緩和は、右腸骨を前上方、インフレア方向に誘導し、腹部表層筋の過度な収縮を抑えることで 図れることがわかりました。

<介入>

評価の通り、まずは体幹表層筋の過度な収縮抑制を図ります。 座位にて、腰背部の脊柱起立筋、腹直筋、腹斜筋の過度な収縮が抑えられる肢位での座位保持を試みました。 これらの筋の過度な収縮が抑えられることで、相対的に深部の筋群の働きを促すことができます。 一つ一つの筋を選択して使えるようにするのではなく、働くように環境を作ってあげることで自然と収縮が入るように促していきます。 保持が可能になったら、その状態から能動的に運動の範囲を広げていけるように動きを促していきました。
腹直筋、脊柱起立筋等の過度な収縮の抑制を、ご本人が意識して動きやすい骨盤の前後傾運動から運動範囲を広げていき、 さらに下図のように左右の坐骨にウェイトシフトしながら、肩甲骨を水平移動するように胸郭上で 相対的に挙上位に保ち肩甲骨と上部平衡系の制御につなげていきます。



最後に頚部体幹の過緊張を抑制した状態で、右肩の挙上訓練を行っていきます。
最初は「腕が重い」「プルプルする」との訴えがありましたが、これは代償運動によって使えていなかった動作パターンの 再学習によるものと考えられるので、アシストしながら継続して行っていきました。 数回、繰り返していくうちに自動での挙上が可能となり、最終的には170度までの屈曲が可能となりました。

上肢帯は空間にて肢位をコントロールするため、他部位の身体動作に応じて常に補正し平衡を維持する作用を有しています。 上肢帯のコントロールは無意識下に制御されるものも多く、どのような対応をしているのかを、 いかに把握するかが重要になってくると思います。そのため運動連鎖アプローチ®の触察による評価は非常に有効であると考えます。
触察をしながら、より機能的な動きが出せる刺激、姿勢を探し動いていいただくことで機能障害の改善を図る。
運動連鎖アプローチ®の有用性が提示できた一例と思います。



中澤 毅(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/新八柱整形外科内科 理学療法士)



【第29回】

運動機能障害のリハビリテーションにおける運動連鎖アプローチ®の位置づけ

運動連鎖アプローチ®を学ばれている方、興味を持っていただいた方から
「どこからみていいのかわからない」
「どのように臨床で使っていけばよいのか
わからない」
という声をよくいただきます。 今回は運動機能障害のリハビリテーションにおいて、運動連鎖アプローチ®がどのような位置づけになるのか、 どのようなアプローチなのかを書かせていただきたいと思います。


「姿勢が悪いですね」
「動きが悪いですね」
外から観察して悪いところを指摘することは、臨床上よくあることだと思います。 ただ、それを正しいと思われるかたちに修正したとしても、経験上、改善しないことがほとんどです。 これは姿勢、動作は結果であって、そうならざるを得ない原因がほかにあるからです。
姿勢、動作はその人が一番楽な使い方、使いやすい方略をとります。この楽な使い方というのは、 常にエネルギー消費を最小限に抑えるように地球上の重力に最も適応できるかたちをとる、ということになると思います。 いわゆるスウェイバック(forword shoulders)などが典型例です。
その結果、適応するために代償運動を伴い、ある特定パターンでの使い方でしか動けなくなり、 それが常態化していくことで脳内にボディイメージが型作られ、それに合わせた見かけ上の関節可動域制限、 筋力低下をきたしていくことになります。
この状態で関節可動域制限、筋力低下そのものにアプローチをしても、なかなか改善しないということになり、 さらに厄介なことに重力に対してどのように適応するかは人それぞれ異なるため、 それぞれ異なったアプローチが必要になってきてしまうのです。
そうした状態に対しては、運動の多様性、姿勢制御のキャパシティを広げていくように重力に適応する 身体環境を整えることが必要であり、運動連鎖アプローチ®は、人それぞれ違う環境への適応方略を視診、 触診を通してみていくことで、適応方略を分析、考察していくアプローチであると考えています。


◆運動機能障害のリハビリテーションにおける運動連鎖アプローチ®のポイント◆
運動機能障害リハビリテーションのいわゆる医学的リハビリテーションにおける運動連鎖アプローチ®の ポイントを以下に挙げたいと思います。

①ありのままの状態を把握します。
その人がどういう身体の使い方をしているのか、どのタイミングでどの筋肉が使われているのか、 どういう姿勢制御の方略をとっているのか、従来、視覚にて把握することが困難であった身体の使い方を リアルタイムに触診をしていくことで探り、分析していきます。

②反応を把握します。
同様にどの方向にどの強度でどの程度動かしていくと、どういった反応が返ってくるのかを、 他動的に操作を加えながら触診を通して探っていくことで、より良い動きを獲得するためにはどの刺激、 筋活動が必要になるのかを分析していきます。

③連鎖を整えていきます。
上記のような評価を元に、ハンズオンもしくは口頭で運動の指示を与えながら、 能動的に動いていただくことで、重力下でのさまざまな運動場面で、一定のパターンを用いた動き方ではなく、 多様な動きのバリエーションで安定して対応できる汎用性のある身体のコントロールとバランス制御の獲得を図っていきます。

その人がどのように動いて、どのように生活を送っているのか、すべての動作を評価することは困難であると思います。 そのため、身体の動き、使い方を診ていくことで、そこから生活動作、運動動作を想像、分析して、より動きやすい方向に、 生活しやすい方向に身体を整え、促していく考え方が必要になります。
運動連鎖アプローチ®は、「身体を治す」手段としてだけではなく、 身体をより楽に動きやすく調整するためのツールとしてとらえることができるのではないかと考えています。 それにより、機能障害だけでなく、スポーツ分野や障害予防の分野でも貢献できる技術を養えると思いますし、 治療に関しては、既存の治療体系、手技をそのまま用い補強するための手段としても有用であると考えています。



中澤 毅(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/新八柱整形外科内科 理学療法士)



【第28回】

顎関節症の運動連鎖アプローチ®

顎関節と頸椎と眼球運動は三位一体であり、どこかが独立で可動することはない。
今回は顎関節症の症例をもとにアプローチ法を紹介する。

case1

初診時所見 右顎関節の痛み・顎関節症Ⅲa型・開口障害(3横指未満)
右顎関節:作業側(噛み癖側)
右顎関節エミネンス(関節結節)クリック1)+開口時の遅れ+
右咬筋緊張+右外側翼突筋緊張+

Alignment
頭蓋:右鱗状縫合外側突出
頸椎:第一頸椎(以下C1) 右回旋変位
胸椎:左側屈・左回旋偏位
左肩甲骨:下制
骨盤:右PI(Posterior Inferior)腸骨

姿勢 
矢状面: Forward head・hypo kyphosis

開口時の下顎の動態と、頸椎の回旋変位は相関しやすいことからも、
胸椎左側屈の立ち直りとしての頭頸部の右側屈、
C1右回旋により右顎関節の開口障害が起こっていると考える。

治療アプローチ

① 眼球運動と後頭下筋群の連鎖より、左上頭斜筋を左の眼球運動にて促通し第一頸椎の偏位を是正 
② 右頬骨を下制し咬筋リリース 
③ 下顎の左側方移動により右外側翼突筋の促通 
④ 脊柱と骨盤に関してはエロンゲーションと骨盤のカップリングモーションの学習によりアライメントの修正
  治療後、開口障害は消失し、疼痛も数回のアプローチにて消失した。

 顎関節は姿勢制御におけるバランサーとして、重要な働きをしており、
偏位の方向や関節運動の異常なども全身の連鎖を加味しないと改善はしないと考える。

 今回の症例も噛み癖が右ということもあるが、C1右回旋の偏位が開口の妨げになっていた。
胸椎からの立ち直りやForward headによる上位頸椎のmobility低下により
顎関節からの運動連鎖の破綻をより強めていたと考え、
骨盤脊柱からの連鎖も重要なポイントであった。

1) 口を大きく開けたときにガクンという、関節円板-顆頭複合体と関節結節がこすれて雑音が発生する。
2)復位をともなう関節円板転位:顎を開け閉めした時に、音(関節雑音・クリック音)がする。



小西 剛史(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/つくし鍼灸接骨院院長 柔道整復師・鍼灸師)



【第27回】

視覚が運動連鎖に与える影響

日常における眼球、頸部の運動連鎖

多くの日常生活動作において、目的の対象物を見る際に眼球と頚部の協調的な連鎖が起こる。 移動する際は行く先に視線を向け、方向転換においては視線、頸部、体幹と順に回旋運動が起こる。 ヒトの目は霊長類の中でも横幅が広く白目の割合が多いことが特徴である。 従って、左右方向に優位に眼球運動が起こりやすい利点がある。
眼球運動が分かり易いと天敵に行動が読まれる危険があるが、 コミュニケーションや道具を通して発達してきたと言われている。 私見としては、二足直立の三次元での姿勢制御においても眼球運動は有利に働いたのではないかと考えている。

症例紹介

20代の頃右目がほぼ失明し、左目のみで農業をされていた80代女性である。 頸椎症性脊髄症でC3-5椎弓形成術、C6-7椎弓切除術を施行されている。
左目を中心に寄せるような姿勢戦略のため、全体的に左に凸の構えとなる。 30日程度の介入であったが、10m歩行で3.8秒、TUGは5.1秒時間短縮しておりTUG優位に改善がみられた。
方向転換の効率性が上がっており、眼球と頚部の運動連鎖を再構築したことがパフォーマンスアップに繋がった一例であった。



治療のポイント

基本動作練習として寝返りを行う。視線、頸部、体幹の順に左右へ寝返り、代償や左右差に着目する。 症例は右側へ寝返る際に頸部右回旋に加えて右側屈が顕著であった。 右目が見えないために左目で何とか地面を見ようとする戦略であったと考えている。
実際に閉眼での寝返りは代償が軽減し、頸部と体幹回旋の連動性が向上したため視覚と体性感覚の不一致が確認できた。 頸部右回旋の代償は頚部の問題か右側を見る左内直筋が適切に働いていない可能性がある。
左内直筋を働かせるために右側を見る練習を行うが、胸鎖乳突筋をモニタリングし過剰収縮が起こらないよう気をつける。 再び寝返りの練習をして代償が軽減すれば、結果として左内直筋の機能不全が内在していたということが導き出される。
代償動作がどのように軽減していくかも重要であり、介助の方向や環境設定を補う筋をターゲットに絞ると負担が分散され、 より運動連鎖が分節的に起こりやすい。



山本 卓(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第26回】

運動連鎖アプローチ®を学んで


運動連鎖アプローチ®概要

・内在的な運動連鎖をパルペーションにて評価・分析をすることによって、 従来視覚にて把握することが困難であった詳細な動作分析を可能とする。
・現在の臨床における治療概念・治療体系を大きく変えずとも、日々の臨床における手助け・指針に大きく貢献します。
・理学療法に止まらず各種代替医療をも研鑽してきた運動連鎖アプローチ®創始者の山本が、 理学療法士の体系や文化に合うようにそれらを運動学・解剖学・生理学に落とし込み統合した治療概念です。


運動連鎖アプローチ®の醍醐味は、上記にあるように内在的な運動連鎖をパルペーションによって評価・分析をすることである。 しかし、パルペーションを習得するためには多くの経験が必要であり、運動連鎖アプローチ®を学んでいくうえで 一番苦労するスキルだと思う。なぜなら、マニュアルがなく個別性を見極めるスキルだからである。 同じ症状であっても、同じアプローチでは治療が上手くいかないことが臨床ではみられます。 内在的な運動連鎖には個別性があり、人それぞれの生活背景や環境などにより症状に至るまでの過程が異なるためである。 エビデンスも大事だが、主観的感覚によって個別性の身体法則を見つけ出すスキルが運動連鎖アプローチ®である。

私自身は臨床で運動連鎖アプローチ®をしていくにあたって運動学・解剖学・生理学をもとに、 観察的運動連鎖を理解しておくことは重要であると考えています。観察的運動連鎖を理解しておくことで、 どこの運動連鎖が破綻しているのかを予測して内在的運動連鎖をパルペーションによって 評価をしていくことができるのではないかと考え、臨床で応用しています。 また、アナトミートレインや経絡も一つの指標として取り入れています。

運動連鎖アプローチ®によって局所の問題から全身の問題、更にはその人なりの法則性を見つけ出すことが出来るようになるだろう。

少しでも興味をもたれたら是非一緒に運動連鎖アプローチ®を学んでいきましょう。



益子 貴博(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士/経絡ヨガインストラクター)



【第25回】

運動連鎖アプローチ®から治療展開 ~胸郭に着目して~

肺炎、COPDなど呼吸器系では胸郭が固く、頸部・肩甲帯周囲の筋緊張が高い印象をもつ。
吸気・吸気筋はたくさんあり、全身リラクゼーションは効果あるのか疑問に感じる。
また、どの筋をどれくらい緩めればいいのか、数ある筋のどれが問題なのか?
アプローチする筋にどれくらいの刺激が必要なのか?深さは?方向は?起始部?停止部?筋腹?軟部組織?皮膚?
運動連鎖アプローチを評価方法として利用できないかを職場のスタッフに協力してもらい、胸郭に絞りアプローチしてみた。

・評価項目
自然な呼吸での上部・下部胸郭の動き、胸骨下角の角度、肋骨の前方・後方回旋、
呼吸のしやすさ、座位でのアライメントを評価項目とした。

・結果
 胸郭動態:右肋骨後方回旋、左肋骨前方回旋。確認:左肋骨を後方へ誘導→右肋骨は前方へ反応。
右肋骨から誘導→左肋骨はあまり反応しなかった。

・治療方針:左肋骨の後方回旋を促す→両側の肋骨が正中位に戻るのではないかと考えた。

・アプローチ1
 片方の手は左肋骨を触診し、もう片方の手で左肋骨の上下を探り、左肋骨の後方回旋しやすい部位を同定
 →連鎖する筋を断定(今回は菱形筋)→運動方向、深さ、強さを探る→刺激として触る、摩るのか反応で選択
 →さらに菱形筋がリリースできる部位を評価→繰り返す

・再評価:施述前の胸郭動態と比較すると、改善が認められた。

アライメントの変化(図1図2)



考察:アライメントや自覚症状は変化したことからも、運動連鎖パルペーションテクニックによるアプローチは、 具体的な治療部位を評価できることからも、かなり細かく原因を突き止めることができる。
また、丹念に連鎖部位にアプローチすることで、座位のポジショニングが楽になり食事やSTへ繋げられる。 そして、呼吸がしやすくなると活動量もあがり、活動と参加がしやすくなるものと考えられる。



藤平 昌(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第24回】

運動連鎖アプローチ® ~荷重側・非荷重側と下肢荷重関節の運動連鎖~

足関節の捻挫などの疾患で、NRS(Numerical Rating Scale)3程度の疼痛が残存してしまい、 なかなか最後まで改善が見られなかった経験はないだろうか?

具体例を挙げると、右足関節捻挫だとした場合、歩行時に右足部が外側で荷重支持をしながら、 左健側も足部が外側荷重支持となり、骨盤の側方移動が出現し、 それを左大腿筋膜張筋で制御することになる。
そのため前額面での重心移動が大きくなることで、 矢上面での運動が低下し、床反力を体のどこかで受けていることになる。
これは、患側下肢の運動連鎖の破綻(タイミングの乱れ、欠落)だけでなく、 健側と患側の運動連鎖と機能不全が起きていると考える。

このような場合、運動連鎖アプローチでは「健常側が患側を規定する」と考えていく。 つまり、荷重側・非荷重と下肢荷重関節の運動連鎖でアプローチしていく必要がある。 荷重側と非荷重は対比する運動になるため、その特徴を以下に示す。



治療アプローチ例としては以下の通りである。(例)右足関節捻挫
①左下腿内旋誘導→②左骨盤前方回旋→③右骨盤後方回旋→④右大腿が相対的内旋方向へ→⑤それによりハムストリングスが促通→⑥右下腿の内旋運動誘発
※①では、テーピング・インソールでも構わない。

このように、健常側からの視点を持つことで、治療の幅が広がることになるだろう。



淵橋 潤也(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第23回】

バランスエクササイズと運動連鎖アプローチ®

2011年に発表された『理学療法診療ガイドライン第1版 変形性膝関節症』には、 観血的治療後の理学療法介入としてバランス運動に関して下記のような記述がある。

・ functional training program と,それにバランスエクササイズを加えた群ともに下肢機能の向上が認められた。 また,エクササイズ参加に対する意欲も高かった。しかしながらバランスエクササイズのみの独立した効果は認められなかった。
・ TKA を試行した退院後の機能的運動による理学療法介入は,短期的には有効(効果量は小から中等度)であるが, 長期的効果は認められなかった。
・ TKA 施行後の集中的機能的運動療法は,短期的そして術後1 年後の運動機能向上が認められた。
(理学療法診療ガイドライン第1版 変形性膝関節症 引用)
バランスエクササイズのみの独立した効果は認められなかったなど、ガイドラインでは比較的否定的な内容ではあるが 実際の臨床場面では機能向上・生活機能向上が認められる事もある。
その際に、運動連鎖アプローチ®における姿勢制御の【自由度と汎用性】の考え方を考慮することで、 バランスエクササイズ中心の介入で状態改善がみられた。

以下症例について紹介する。

70歳代女性。既往歴は両膝OA・糖尿病。患者は術前より歩行時の膝痛や膝の脱力感があり、転倒を繰り返していた。 生活範囲の拡大を目的に左TKA後、1ヵ月間の入院リハビリテーションを受けた。自宅に退院したが、歩行速度は遅く、 動作は不安定で生活範囲が制限されたままであったため、当院で週2回の外来リハビリテーションを開始した。
外来リハビリテーション介入前の現症は、膝ROM制限(屈曲:Rt 90°, Lt 50°, 伸展:Rt -35° Lt -20°)と 膝屈曲・伸展(MMT4)の筋力低下を認めた。30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)は3回、10m最大歩行速度は0.5m/sec、歩幅0.33m。
介入はバランス訓練を中心とした20分間の理学療法を3ヶ月間継続した。その間、前病院で指導された筋力訓練を継続するように指導した。 3ヶ月後、膝ROM(屈曲:Rt 90° Lt 60, 伸展:Rt -35° Lt -20°)、膝関節屈曲・伸展筋力(MMT4)に著変なし。
CS-30は11回、10m最大歩行速度は0.67m/sec、歩幅0.38mであった。

 介入ポイントとして、立位での姿勢保持に関る筋群の活動やCenter of Pressure 、Center of Mass 動揺を最小化して 汎用性を促通するような戦略をバランス訓練に取り入れた。
特に頭部、上肢、体幹の質量中心をCenter of Gravity の移動方向と反対にシフトさせることで、 上部平衡系の自由度を広げつつ、股関節制御の自由度を高める介入を考慮した。
立位前額・矢状面上での股関節制御能力が、左右の重心移動を円滑にさせ歩行速度・歩幅・CS-30が改善したと考えられる。



仁木 洸平(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第22回】

皮膚・筋膜の触診について

 評価・治療に際して、まず身体に接触する軟部組織は皮膚であり、筋膜・筋肉・骨関節への パルペーションにおいても皮膚を介して実施しています。
関節機能障害における病態を考える上で、関節の不整合は欠かせない知見ですが、 軟部組織の階層性を考えると骨関節に付随して軟部組織が何らかの変位を起こしているものと察せられます。

 皮膚は全身を一枚のシートのように身体を覆っているため、局所に機能障害があり、 筋スパズムがあると全身に波及することになります。
実際の機能評価においては、四肢であれば同質同量で両側をパルペーションし可動性を比較していきます。
パルペーションの感覚としては、可動性をみようとするよりは侵襲性がないように動きに追従するように、 反応を確かめるような触り方が好ましく、繰り返し行っていると、皮膚・筋膜の継時的な変化がわかるようになります。

 左右でみてみると相対的な変位を評価することになりますが、一側の皮膚・筋膜の誘導にて 対側の変位が改善するようであれば、治療側は最初に動かした側からということになります。 逆に、皮膚・筋膜の誘導にて対側に何の変化もない場合は治療側として選択しないことになります。
連鎖のない部位、反応が少ない部位に関しては全身への関与が少なく、局所の変化のみでは侵襲性が 強く、かえって悪くなることがあるためアプローチ対象からは外します。
局所の機能障害は、関連部位が存在し、お互いが強固に結びついています。 最も関連がある連鎖部位を見つけ出し、同時に感覚入力を与えることで連鎖を促し、機能障害を解除していきます。

 セラピストは触診から①Reactionの有無、②刺激の方向 遠位⇆近位、③刺激の深さ 浅筋膜・深筋膜、 ④軟部組織の弾力性・可動性・滑走性を確認します。

筋肉が収縮するとき停止部付近から起始部に近づくように動くため、 皮膚・筋膜を停止部から起始部に刺激することで収縮を誘導できます。 また、起始部から停止部に皮膚・筋膜を刺激すると伸張・弛緩を誘導できます。
大腿四頭筋の過緊張による疼痛・圧痛が生じている場合、一般的に主動作筋にアプローチを行いますが、 効果が思わしくない場合も多く、拮抗筋のハムストリングスに対して促通するようにアプローチを行うことで 相反抑制により改善がみられることもあります。
主動作筋をアプローチするのか、補助筋、拮抗筋、連結筋をアプローチするのか、隣接関節の筋に対してアプローチするのかは 触診による反応から判断しますが、この操作は侵襲性が低く、一つの筋がどのように動作に影響しているのか確認するのに有効です。



北垣 祥平(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/理学療法士)



【第21回】

~運動連鎖アプローチ®によるパルペーションテクニックでの臨床における考え方について~

 運動連鎖アプローチ®による臨床原則の中で同質同圧でのパルペーションテクニック(以下、触診)がある。 刺激と反応という流れであると考える。単純なことであるが弱い刺激であれば弱い反応、強い刺激であれば強い反応となる。 刺激と反応の繰り返しの中で上行性・下行性へと連鎖が波及し流れる。そこで、連鎖のある所にアプローチを行い、 連鎖のない所ではアプローチをした後にどう変化したかを見る。
この一連の流れは、刺激と反応の繰り返しの中でセラピスト自身がどう認知・認識したかどうかである。 そして、その認知・認識が「正しい」という肯定として捉えるのではなく、 「そう考えた」という考えで理解していることが大切なことである思う。 そうすることで、治療の中で、上手くいかない・間違っている場合でも再度考え直すことや戻ることが可能となり対応ができる。 結果、治療選択の確率が上がり、適切な治療へと進むと考えられる。
また、運動連鎖アプローチでの触診では刺激・反応・認知はセラピストの皮膚(手)からの情報収集であり、 セラピスト自身が評価の道具となることもしっかり認識し、治療の中でその情報(考え)が思い込みではないかどうかを 常に頭の隅に置いておいて確認しながら行うことが必要と考えられる。

以下、症例について紹介する。

現病歴;70代女性、今年9月末、自宅に親戚夫婦が数日間泊まり食事の用意などで立ち仕事がいつもより多い中、 腰背部の痛みを覚えた。親戚が帰った後も1週間ほど腰背部痛が続き痛みの軽減がなく来院する。

既往歴;今年の春に当院にて左足関節脱臼骨折にて手術をされている。レントゲン上は問題なし。
腰背部(左側)に圧痛(+)、体幹右回旋時に骨盤(左側)に痛み(+)、下肢の可動域低下(-)、筋力低下(-)、 立位でのストラテジー評価(外乱刺激による前後・左右)では左側方へのシフトがやや難しい状況である。 運動連鎖によるパルペーションテクニック(以下、触診)では、最初に臥位にて評価する。
左足関節の既往があったので足関節から上方へ進めた。距骨を内後方へ動かすと左腸骨のインフレア・前傾の連鎖があった。 そして、左側臥位にて腸骨インフレア・前傾での上行性への連鎖が確認されなかったので、 肩甲骨から左腸骨へと下行性への連鎖に視点を変えた。肩甲骨から腸骨への下行性で連鎖が確認され、 更に左TH5/6ファセット(腹側方向)と左腸骨(インフレア・前傾)に連鎖が大きくあったと感じた。

 治療においては、TH5/6のファセットの動き(腹側へ)を出して行くと、腰背部の張り・痛みが楽になるとの訴えがあり、 下肢へと連鎖の波及もその後に見られた。立位にてストラテジー評価にて治療効果を確認し左側方にスムースに行くことが見られたので、 治療を終了した。
問診で確認すると、立位で左回旋が優位な状態での台所の仕事など家事をすることが多いとのことで、 お客さんが来ていつも以上にその動作が多くなりストレスになったのではないか推測した。
その後、1週間後に受診で来られていたが、腰背部の痛みの訴えはなかった。



川越 寿織(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第20回】

足部の機能運動学 2

足部内在筋の機能(フォースカップル) 運動時の筋活動を評価するにあたっては、 筋単独の活動とその関節運動のみを見ていては機能的な評価を行うことはできません。 足部運動においては特に 5 層からなる各筋と足底腱膜をはじめとした結合組織における 相互関係・協調作用を理解することが重要です。 ここでは、一例として足部内在筋の協調作用(フォースカップル)について説明します。


1、足底方形筋と長趾屈筋
長趾屈筋は、足趾の屈曲を行う筋ですが、この筋は長いレバーアームをもち足関節、斜中足根関節軸に対して ほぼ垂直に走行するため、強力な足関節底屈と中足根関節回外を起こします。 この筋の足底面の走行は、内果方向から斜めに進行し、リスフラン関節付近で走行角度を変えて 中足骨と並行し足趾に向かいます。 この筋が単独で収縮すると、純粋に足趾屈曲には作用することはできず、 前述の通り足関節底屈と中足根関節 回外方向に作用します。これを補正するように働くのが足底方形筋です。 足底方形筋は長趾屈筋腱に付着をもちます。この筋の機能不全がある場合、足趾の屈曲よりも近位の足部運動が強調されます。


2、骨間筋・虫様筋と足趾屈筋群
歩行時など前足部での支持を行う場合、中足骨頭が水平面上に並列となり地面を押す、 いわゆる底屈をする必要があります。 荷重がかかれば同等の床半力を受けることになり、 その半力をうけとめることが荷重支持には必要となります。 この時に働く主な筋は、 長腓骨筋、骨間筋、虫様筋です。足趾の屈曲も荷重支持には関与しますが、 十分な足趾屈曲の作用をもたらすためにも前述の筋が適切に機能することが求められます。

第一列の中足骨を底屈位に保持するのは長腓骨筋の働きが大きいですが、 第 2~5 趾においては骨間筋と虫様筋がその役目をします。 両方とも横中足趾節関節(MP 関節)の関節運動軸よりも下面を走行し、 骨間筋は基節骨近位縁、虫様筋は横趾節関節(IP 関節の背側 を通り末節背面に付着します。 これにより中足骨骨頭を底面に引き下げる(底屈させる)作用をもちます。 また、この筋の作用がなければ、指で踏ん張るような状況において足趾屈筋群が働いても、 MP 関節も大きく屈曲し床面を捉えること ができません。 足趾での支持を機能的に行うためには骨間筋・虫様筋との協働が重要です。


足部機能の理解に向けて 二足歩行をする人間において、足部は支持機構の土台であり、 また力学的伝達の唯一の接点でもあります。 27 個の骨と 5 層構造の筋をはじめ複雑な構造とたくさんの役割を果たすこの足部は、 全身に影響を与えると同時に全身からの影響 を受けて最終的な運動の仕方が決まる部位です。
インソールやテーピングなどで単に固定し、外力をもって安定性を高めるだけでなく、 本来の足部機能が発揮しやすい環境を提供す ると共に足部機能を高めるためには過保護にしない環境での足の使用も重要です。 5 層構造の筋の大半は、いわゆるインナーマッスルです。つまり随意的な収縮活動よりも 先行的かつ協調的な自動収縮が求められる 筋が多いということです。
マルアライメントを引き起こす要因を全身から評価し、コントロールできる範囲内で 足部機能を高めるために様々な環境設定での足 底筋トレーニング、 他関節とのコーディネーショントレーニングを実施していくことが求められます。



栗山 努(株式会社アール・ケア アール・ケアコンディショニングセンター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第19回】

足部の機能運動学 1

足部へのアプローチの課題(理学療法において)

◯足部機能に関する教育・学習が十分になされておらず、そのため運動療法による介入が乏しい。
◯マルアライメントに対するアプローチがインソールとテーピングに偏っており、かつ補装具の作成などに理学療法士が関与する機会が減少している。
◯日本のTh活文化においては、屋内において靴を脱ぐため、靴やインソールなどによる効果は出しにくい。


一般的な動作と足関節の運動 まず、足部運動の基本的な理解としゃがみ込みや爪先立ちといった 一般的な動作時の足部運動を確認したいと思います。 足関節の可動域は一般的に底屈45°、背屈は25°と言われていますが、 しゃがみ動作が多いアジア圏では40°を超える可動性をもつ場合も少なくないと言われています。

底背屈は距腿関節でおこる運動ですが、距骨の運動には踵骨との関節である距骨下関節の運動の影響を受けます。 オープンな運動であればその影響も少ないですが、荷重位などクローズな運動では大きく影響されます。 荷重時の踵骨やショパール関節の過回内は距腿関節のアライメントを崩し、 可動域制限を起こすと共に下腿(脛骨)の内旋そして大 腿骨の内旋を連鎖的に生じます。

足関節背屈制限がおきれば前方への荷重移動は困難になります。また下腿内旋により、 いわゆる KNEE IN の状態となり股関節も内 転内旋が生じます。 この結果、膝には捻転のメカニカルストレスがかかると共に大腿四頭筋など膝関節伸展筋の張力は 真っ直ぐ効率的な伝達ができなくなります。立ち上がり動作では足関節においても底屈筋の活動により 足底で地面を押す働きがおこる必要がありますが、これも足根骨のアライメント不良は底屈運動が阻害され十分な支持ができません。


足部の主な関節と運動における解剖学的特性

1、距骨下関節
距骨下関節は、距骨と踵骨の間にある関節で、2つときに3つの関節面をもっています。 回内外の可動域全体を通じて運動は後方及 び外側距踵靭帯、骨間距踵靭帯により制動されています。 距骨下関節面の形状は個人差が大きく、運動軸(関節軸)の位置も横断面で「約 20°~約 70°」、 矢状面で「約 5°~約 50°」の範囲 で個人差が見られます。 距骨下関節の回内外は下腿の内外旋に連鎖します。運動軸が両面において 45°にある場合、 後足部の運動と下腿の回旋は 1:1 の比 率で起こります。しかし、運動軸が横断面において 70°傾いていたとしたら比率は変わり、下腿の回旋運動は後足部の運動より大きくみられるようになります。

また、この距骨下関節の回内は、距骨と中足骨を末梢方向に前方移動させます。 一般的に踵骨の回内10°毎に距骨は前方に約 1.5mm 転移すると言われており、 過度の距骨下関節回内は、足底腱膜と前足部軟部組織を繰り返し伸長することで損傷し、 足底腱膜炎をはじめMP関節滑液包炎や足底腱膜付着部の骨棘形成を生ずる可能性があります。

2、横足根関節(ショパール関節)
横足根関節は、距舟関節と踵立方関節との間にある関節で、 長軸と斜軸の二つの関節軸をもち、3平面運動が見られます。 斜軸は、横断面に対して約 52°、矢状面に対して 57°傾斜し、長軸は、横断面に対して約 15°、 矢状面に対して約 9°傾斜しています。 斜中足根関節軸は、矢状面と横断面にて大きな可動性をもちますが(背屈・底屈、外転・内転)、 前額面の運動(回内・回外)の可動 性が低いです。 それに対して長中足根関節軸は、矢状面と横断面の傾斜が少ないため、ほぼ純粋な前額面上の運動を行います。

距骨下関節の回外は、中足根関節長軸での回内と斜軸での底屈・内転を起こし、第 1 列(母趾)の可動性を減少させます。 また、足関節を底屈方向に誘導すると共に遠位脛腓関節の離開を制動します(腓骨は内旋・下制)。 距骨下関節の回内は、中足根関節長軸での回外と斜軸での背屈・外転を起こし、第 1 列(母趾)の可動性を増大させます。 また、足関節を背屈方向に誘導すると共に遠位脛腓関節を離開します(腓骨は外旋・挙上)。

関節運動軸は個人差が大きいと共に臨床上で計測することは困難です。 つまり、フィジオ運動連鎖アプローチでも重視している通り、 関節運動を細かく触診し、左右左の有無を確認すると共に動作の中でアプローチの反応を見ることが求められると言えます。


栗山 努(株式会社アール・ケア アール・ケアコンディショニングセンター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第18回】

運動連鎖アプローチ®を用いた治療展開 ~大腰筋に着目して~

 腸腰筋は腸骨筋、大腰筋に大別され、作用は股関節の屈曲、腰椎の前弯とされている。 運動連鎖アプローチ®における腸腰筋の役割は、腸骨のインフレア(内側腸骨)や腰方形筋と連動して骨盤の安定性に関与している。 また、腰椎アライメントを保ち、機能的な身体軸を作るための主要筋としての役割など多岐にわたる。 中でも大腰筋は解剖学的に前方・後方繊維に分かれており、前方は股関節屈曲作用、後方は体幹伸展作用とされている。

運動連鎖アプローチ®における腸腰筋評価とトレーニングは多種多様であり、基本となる運動として次のようなものがある。(図1)



図1 股関節屈曲、やや内旋位とし骨盤の中間位を保持する。
下肢挙上位から負荷抵抗をかけて保持能力を観察する。


次に腸腰筋トレーニングとして、段階的に①→②→③の順番で難易度を高くしていくと効果的である。




大野木 翔一(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)



【第17回】

肩甲帯の姿勢制御における役割と運動連鎖

 運動連鎖とは一般的には足からの上行性運動連鎖であり、下降性運動連鎖とは頭頸部の影響が、 下肢に波及していくことを指します。上肢肩甲帯は関節運動学的には肩関節の構成帯としての機能に注目されることが多いですが、 ロコモテイブな観点からはモーメントアームとしての作用を有します。つまり、プロペラのように手を振ることで、 身体内に回転モーメントを発生させ、相拮抗する力を身体内に作り出します。この慣性などの外部からの外乱に対して、 バランスをとれることこそが安定であり、移動能力の向上と活動の幅を広げてくれることになるのです。

 身体重心に生じた受動的および能動的な外力に対する運動戦略で代表されるものに股関節戦略、 足関節戦略といったものがあります。より外力が大きくなると転倒予防のためにステッピング反応となりますが、 いずれにしても重心移動に伴う支持基底面を広げるコントロール反応といえます。しかし高齢者では様々な要因により 上記の運動戦略能力が低下することで脊柱-膝による代償動作、つまりhip-spine syndromeといわれるような重心を下げる 運動戦略を選択されることがとても多いです。重心を下げることで確かに物理的には安定しますが、 一度バランスを崩すと転倒予防のための運動戦略が出現しにくくなります。本来骨盤帯や胸郭は頭頚部を安定させるための 土台として機能しますが、より脊柱-膝の屈曲代償が強くなると頭部前方位など、身体各部位を前後に配置する 重みを利用した戦略などを用いるようになります。

 また肩甲帯は頚椎運動とも密接な連鎖反応があります。頸椎回旋に伴い、通常回旋側の肩甲骨が内転、 反対側は外転もしくは不動の傾向がありますが、それとは逆に回旋側の肩甲骨が外転してしまうことがあります(図1)。



そうすると、頸部回旋にともない、肩甲骨が近づくことになり、頸椎に過度な捩れが生じ、 肩甲骨や肩関節に痛みや違和感が生じやすくなります。結果的に上部平衡系にも影響がでることで、 姿勢制御としての機能低下に繋がります。


西住 諒(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)




【第16回】

運動連鎖アプローチ®における上部平衡系とは?

 上部平衡系とは運動連鎖アプローチ®における身体機能の原理原則となるべきコンテンツです。 肩甲骨の重要性は姿勢制御においても明らかであり、この肩甲骨のアライメントと可動性が抗重力下での立位、 歩行に大きく影響を及ぼします。姿勢制御においては頭一上肢一体幹のHAT戦略と骨盤戦略(動的平衡)にわけて説明されています。 骨盤戦略は主に立ち直り反応としての姿勢制御であり、動的な平衡とされる意味はバランス反応だからです。
決して固めているわけではなく、制御されているのです。かたやHAT戦略は上半身重心を基点とした、 どちらかというとバランス反応よりも腹圧などのシステムを活用しての固める姿勢制御となります。 ここに本来はパラシュート反応や保護伸展反応などの、さらに多様な姿勢制御機構が導入されていきます。

 ここでつま先立ちという動作を考えていきたいと思います。特にご高齢の方でよくみられる反応として、 つま先立ちに先行して両肩甲骨の挙上、頭部前方位の増強が起こり、頭頚部、上部体幹が一塊の剛体となることが多い印象です。
若い方では腰椎の前弯の増強、股関節伸展位による骨性支持により、カウンターウェイトを用いた反応が多くみられるでしょうか。 どちらにせよこれらの反応では不安定な状況下で動的な戦略ではなく、どちらかというと固定性の強い静的な戦略といえます。

 ではこのつま先立ちという動作の中で上部平衡系として肩甲骨はどのような働きを目指していくのか? つま先立ちは抗重力活動であり、肩甲骨はその逆となる縦重力活動、つまり挙上、外転ではなく下制、 内転による胸椎の伸展を促し、脊柱のS字カーブを出現させることが重要だと考えます。
高齢の方によく見られる肩甲骨の挙上は頭頚部と上部体幹を一塊にすることは逃避反応の一つと言えますが、 動きの質を考えると正しくありません。いかに推進器、平衡器として肩甲骨を活動させ、 頭頚部や上肢を自由に動ける身体作りをしていくかが、転倒予防にも繋がります。


西住 諒(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)




【第15回】

内在的運動連鎖を応用した実際の症例報告②

左肩関節周囲炎の診断を受けた50代男性


 1年ほど前に左肩周囲の疼痛と可動域制限を認め半年前に整形外科受診、上記診断を受けた症例。 仕事柄通院はできず、接骨院にて週一回加療しているが、その時気持ちいいだけで痛みは変わらず、 可動域は以前より低下しているとのこと。今回、知人からの紹介で運動連鎖アプローチ®による対応をさせていただく機会を得た。

 職業は会社員だが幹部で多忙な生活を送っており、動作制限やコントロールはなかなかできない現状。 接骨院では原因不明の大円筋の筋硬結による障害と言われているようで、とにかくここをほぐしてくれ、という訴えであった。

所見としては左肩関節肩峰下、上腕骨大結節に圧痛、自動運動の屈曲、外転とも90度前後にて肩峰から 三角筋中部繊維付近に疼痛を感じるとのこと。他動での特徴的可動域は、水平内転80度で肩関節前方につまり感に近い痛み、 2ndポジションは何とか可能だが、そこからの外旋は45度前後、内旋は30度前後、および外旋から内旋の0度通過時、 それぞれに肩峰から三角筋部に疼痛を訴える。更衣、整容動作は全て何らかの制限がある状態。

 内在的運動連鎖によるところの受動的パルペーション(以下触診)にて評価を進めると、左肩甲骨は右に比べ前傾かつ外転位、 肩甲骨に対して上腕骨は外旋位というアライメント不良が見られた。小円筋や大円筋など後方の軟部組織も強い筋硬結、圧痛を認めた。 症例①と同様に、治療部位の決定のために触診を進めた。左肩甲骨に触れモニタリングしながら、もう一方の手で脊柱を触れると、 肩甲骨の前傾かつ外転が正常の位置に戻ろうとする動きが感じられたので、脊柱を上下に分けて触ると、 より腰椎側である下方に反応が見られ、最終的には左足部にたどり着いた。

 問診にて確認すると、学生時代のスポーツでひどい左足関節捻挫を受傷していたことがわかった。 ここで立位姿勢を確認すると、重心は左寄りであるものの、上部体幹は左肩甲骨の前傾外転に伴って右回旋し、 下部体幹は左回旋していた。片脚立位は左の動揺が大きく、拇趾球側に荷重することが多く見受けられ、 肩甲帯でバランス補正を行う印象であり、足部が骨盤から体幹までの左右回旋での姿勢制御に関与していると推測できた。

 臥位になっていただき、足部のアライメントを触診にて確認すると、距骨が下腿に対して前内側に偏移していることがわかった。 また足関節周囲筋の筋力低下も認めた。そこで距腿関節の正常化を誘導しながら左足関節底背屈運動を自動介助で行い、 その後不安定なクッションの上に左下肢を乗せて部分荷重し、水平を保つエクササイズを指導したところ、各評価項目の改善が見られ、 自動運動での屈曲、外転も140度前後まで改善した。

このように、触診を用いることで、治療方針をスムーズに組み立てることの一助となる。


小林 伸二(金澤病院 理学療法士)




【第14回】

内在的運動連鎖を応用した実際の症例報告①

右膝内側半月板損傷の診断を受けた50代女性


 2年ほど前に関節水腫と立ちしゃがみの動作時痛を訴え整形外科受診、 上記診断を受け、関節穿刺により処置するが一時的な緩解であったため、 独断で弾性包帯固定をしばらく行い水腫は軽減するものの、立ち上がり時、 体幹の回旋が伴う特定の動作にてクリックと疼痛が残存。現在は独自の運動などで何とかやり過ごしているが、 根本的な解決に至らず、どこに行ったら良いか、何をしたらよいか迷っている中で、 知人からの紹介で運動連鎖アプローチ®による対応をさせていただく機会を得た。

 職業は小学校教員で多忙な生活を送っており、動作制限はなかなかできない現状。 所見としては右内側半月板前縁に圧痛、膝関節完全伸展、完全屈曲にて同部位に疼痛出現。

 内在的運動連鎖によるところの受動的パルペーション(以下触診)にて評価を進めると、 右大腿に対して下腿が内旋、左大腿に対して下腿が外旋しており、両足部に対して大腿より上が 右回旋していることが想定された。問診にて確認すると教壇で立っているときも、 自宅でテレビなどを観るときも体幹が右方向に回旋していることが多いとのこと。 立位にて重心を確認すると疼痛側の右に身体重心が偏り、肩甲帯も右が下降し相対的に体幹が右回旋している。 立ち上がり動作も右大腿遠位に上肢で支持して立ち上がるが、重心は動作を通して右に偏っており、 何らかの理由で以前から右寄りの身体重心がこの方の身体特性となっていることが推測できた。

 治療部位の決定においても触診を用い、右下腿に手を置きモニタリングしながら、 もう一方の手で身体各部位を触り、右下腿が正中位に近づく動きを感じる部位を探していくと、 胸椎中位、棘突起付近を触れるときに右下腿に反応があることが分かった。胸椎に視点を移し、 棘突起を左右に動かすように確認すると、Th5/6を起点として上下いくつかの胸椎が右回旋し、 かつ動きが硬いことが分かり、ご本人に体幹の回旋を自動で動かしていただいても左回旋がしにくいとの訴えがあった。

 そこで、Th5/6を支点としたレバーアームである上肢の動きを伴った体幹左回旋ストレッチを 二種類ほど指導させていただいたところ、大腿下腿のアライメントが整い、圧痛や可動域も改善、 姿勢と立ち上がり動作の正中化が見られ、上肢の支持がなくても楽に立てるとの感想をいただけた。 このように、触診を用いることで、治療方針をスムーズに組み立てることの一助となる。


小林 伸二(金澤病院 理学療法士)




【第13回】

運動連鎖アプローチ® ~インナーマッスルついて~

今回は、運動連鎖アプローチ®で行っているインナーマッスルの促通方法について説明していきたいと思う。

筋肉には大きく分けてインナーマッスルとアウターマッスルがある。
インナーマッスルとは、身体の内側に近い筋肉の事で、アウターマッスルとは身体の外側に近い筋肉の事である。 インナーマッスルは、能動的に働く際、アウターマッスルに先行して働く事が多く、 その働きによりアウターマッスルは、強く大きな筋機能を発揮する事が出来る。

インナーマッスルの促通方法の三大原則
①Assist(介助)
②Slow(低速)
③Middle range(中間可動域)



これは、様々なインナーマッスルの促通としても使えるので是非試してもらいたい。
アウターマッスルが過活動しない、Middle range(以下MR)で、姿勢制御や運動速度が変わらないように、 インナーマッスルをゆっくり(Slow)と他動的に動かし(Assist)ていく。

では具体的に鎖骨下筋に絞って考えていきたい。鎖骨下筋は、第一肋骨と鎖骨に起始・停止部を持つ。 鎖骨を前下方に誘導する働きにより、胸骨に安定させる働きをするインナーマッスルといえる。 鎖骨下筋の上には、アウターマッスルである大胸筋が被さっており、直接的に触れる事は出来ない。 まず、大胸筋を短縮域に持っていき、鎖骨下筋のパルペーションを行う。上肢をMRで内外転しながら、 運動速度や姿勢制御が変わるところ、パルペーションしている鎖骨下筋の収縮が感じられない可動域(Range)を確認する。
次に、再び上肢を内外転しながら、大胸筋が過活動しないMRで、鎖骨下筋をパルぺーションしながら ゆっくり(Slow)と他動的に動かし(Assist)ていく。
全可動域にわたり、同じ速度で、鎖骨下筋の安定している収縮を感じる事が出来たら、促通出来たと言えるだろう。 可動域の拡大が得られるだけでなく、大胸筋の過活動の軽減や機能的な姿勢制御に肩甲骨が参加してくれるだろう。

肩甲胸郭関節周囲には、インナーマッスルの役割を果たしている筋肉として、肩甲舌骨筋や肩甲挙筋、肩甲下筋など様々あるが、 同じような促通効果が期待出来るので是非試してもらいたい。 インナーマッスルを促通する事は、セラピストの醍醐味といってもいいかもしれない。
運度連鎖アプローチ®では、「観察的運動連鎖」と「内在的運動連鎖」を臨床で培った目とパルペーションで解読し、 骨関節や筋肉、また筋膜を含む膜系や情動など、ミクロからマクロまで様々な評価やアプローチを行っている。
今回は、インナーマッスルである鎖骨下筋にフォーカスを当てて説明を行ってきたが、これはほんの一部であり、 興味を持たれた方は、運動連鎖をもっと深く学んでもらえたらと思う。


深山 慶介(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士))



【第12回】

運動連鎖アプローチ® ~パルペーションテクニック習得までの5つの道のり~②



前回の記事では、運動連鎖パルペーションテクニックを習得する上での基礎・基盤の練習法について記載した。

運動連鎖パルペーションテクニックはクライアントの変化を刻一刻と追いながら、 仮説・検証・治療・予後予測が四位一体となった万能アプローチだ。 加えて、他の治療法と干渉することがないため、今後あなたが様々な治療法を学んでいく上で、 体の理解と技術の向上に相乗効果をもたらすテクニックでもある。

そのため、確実に運動連鎖パルペーションテクニックを習得するために、 前回の記事をご覧になっていない方は是非読んでいただき、手順に沿って効率的に習得して頂ければと思う。
今回は、さらに高度な練習法を解説する。




今回の応用編では、上記③~⑤を扱う。 本題に入る前に、②までの課題をクリアしておこう。 片手ずつ別部位を触ってそれぞれの皮膚・筋膜の動きを触知でき、 かつ、操作側とモニタリング側に片手ずつ役割分担をする。 操作側で行った介入がモニタリング側にどのように反応するのか? その因果関係がわかるようになっていることが必要である。

上記の課題がクリアできている方は本題の応用編に進もう!




手順②までの課題をクリアし、臨床で盛んに使うようになると、 皮膚・筋膜に対しての感受性が上がりすぎる。 そのため、物体を触っても皮膚・筋膜が動いているように感じてしまうことがある。 これは、自分自身の皮膚・筋膜の動きを物体を通して感じていることになるが、 本来、物体は動くものではないため、感知してしまっているのは誤作動だ。 上がりすぎた感受性を適量にまで下げて調整することがこのステップの課題である。

訓練方法は、物体などを触った時に自分の皮膚・筋膜を感知しないように意識を向けるだけだ。 これが出来るようになると、手から入ってくる情報を取捨選択できる能力がつけられる。 自分と相手と物体を、情報を切り分けて触り分ける事が出来るので、他者の手を介して触診した時にも、 対象とする皮膚・筋膜の動きを触診する事が出来るようになるのだ。 講習会でインストラクターが受講者の手の上から触診してアドバイスをしているのは、 この能力が備わっているから出来ることなのだ!




今までの触診の時の手の使い方は、主に指先は使わず、手のひらで触診をしてきた。 今度は、手のひらの中でも、具体的にどの部位が詳細な治療点になるのか? 組織の深さと線維まで細かく評価・治療できる能力をつけていく。

訓練方法は、今まで手のひらで触診していたことを指先を使って触診できるように練習することだ。 ここまでのステップに進んでいる方はさほど難しくない課題だろう。
『手のひらで触知した組織』と『指先で触知した組織』の層や線維に違いがあると、 触診結果が変わってきてしまうので、手のひらと指先、それぞれで触診した時に整合性が取れているように練習しておこう。
これが出来るようになると、組織そのものの変性や可逆性が評価できるようになるため、予後予測に役立つぞ!




運動連鎖アプローチの神髄はこのステップにある。 今までの静的なパルペーションから、動的なパルペーションへと移行しよう!

今まで訓練してきた①~④のステップを駆使して、クライアントの身体活動場面に応じた 徒手療法と運動療法を同時並行して治療・介入を行っていこう。
基本となる介入方法は変わらないものの、動的になることでより複合したアプローチを求められるが、 応用の幅は無限大になり、アプローチのカスタム性が非常に高くなる。 また、新たな運動連鎖の法則を独自で開発することも可能になるため、臨床の楽しさも倍増することだろう。




2回にわたって運動連鎖アプローチ『パルペーションテクニック習得までの5つの道のり』を解説してきた。

この技術は、運動連鎖アプローチ®創始者の山本が、理学療法だけでなく各種整体法や東洋医学、 フィットネスなどの知識を融合した、全く新しい包括的なアプローチ方法である。 どの業界の健康法や治療法にも適応できるこのパルペーションテクニックを習得することは、 あなたのセラピスト人生にとっての財産となるだろう。

是非、本記事を読んだあなたには効率的に習得して頂き、よりよいセラピスト人生と、 クライアントをより最善へと導ける一助となれれば幸いである。


高木 謙太郎(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)/鍼灸師/QOLdesign株式会社 代表取締役)



【第11回】

運動連鎖アプローチ® ~パルペーションテクニック習得までの5つの道のり~①



運動連鎖アプローチ®の基盤となる内在的運動連鎖を評価する上で習得しておきたい技術がパルペーションテクニックだ。

パルペーションテクニックを習得することが出来れば、格段に治療技術が向上する。 加えて、他の治療法と干渉することがなく変幻自在な運動連鎖パルペーションテクニックは、 今後あなたが様々な治療法を学んでいく上で、体の理解と技術の向上に相乗効果をもたらすテクニックであるため、 是非とも習得して頂きたい技術だ。

そこで今回は、運動連鎖パルペーションテクニックを習得するまでのガイドラインとして、 自身の経験を交えながら習得までの道のりを5つに分けて紹介する。




上記の5つの段階に沿って訓練を積むことで、スムーズにパルペーションテクニックを習得することが出来る。 いきなり高度なテクニックを行うのではなく、個人の習熟度に合わせてマイペースに取り組む事をオススメする。

習得までの期間は個人差があるが、筆者は試行錯誤しながら約2年かけた。 パルペーションテクニックを習得するまでの目安にして頂ければ幸いである。

それでは、以降より本題に入る。




運動連鎖アプローチ®の特徴である内在的運動連鎖。 そのために必要な触診法(パルペーションテクニック)を会得するための第一歩は、 両手で同一部位を触診し、皮膚・筋膜の動きを触知できるようになることから始まる。

以下に練習法を記載するので、一緒に行って頂きたい。
① 片側の大腿を左右から両手で触る。指先の力は抜いて、手のひらで行う。
② 同質・同圧で最大圧迫する。
③ 圧迫した両手の力を徐々に抜いていく。
④ 自然と触診している組織が(勝手に)動くような感覚を感じる。(右左の触診部位はそれぞれが独立して不規則に動く。)

ここまでが第一関門だ。
次のステップは、
① 組織の動きを遮ることなく追随していく。
② 組織の動きが大きくなったり小さくなったりするのを認知できる。
③ 圧迫の強さ(組織の層)を変えても同じように感じることができる。

ここまで来れば、臨床で使えるようになるのはもうすぐ!
次は、臨床で評価・治療として使えるようになるためのステップへと進むぞ!




運動連鎖アプローチ®では、片手をモニタリング側、片手を施術側と役割分担をして内在的運動連鎖の評価および治療を行う。 役割分担をすることによって、評価と治療を同時並行する事ができるとともに、常に効果検証をしながら治療が行えるため、 仮説・検証・予後予測の能力が格段に上がる。

ぜひ、もう一歩踏み込んでパルペーションテクニックを修得し、刻一刻と変わるクライアントの変化を的確にキャッチしつつ、 効果的な治療が行えるように訓練して頂きたい。

ステップ2の訓練方法は、ステップ1で両手で訓練した内容を片手で行うことから始まる。
① 片手で組織(皮膚・筋膜)の動きを触知できる。(右手のみ、左手のみで訓練をする)。
② 右手と左手は別部位を触り、それぞれの組織(皮膚・筋膜)の動きを別々に認知できる。

ここまで出来るようになったら、いよいよ治療のための訓練へと入る。
① クライアントの後方より、左右の肩甲骨を頭側から触り、肩甲骨上部の組織の動きを確認する。
② 組織の動きやすい側に関節運動は導かれる傾向のため、それが是正されるように、片方の手だけで是正方向へ修正を加える。その際にもう一方の手で変化が現れるか確認する。
③ 片手で是正した際に、もう一方の手も是正される量と質が大きい方が、是正ポイントの組織や関節の動きが原因となってもう一方の組織や関節に影響を与えている、因果関係が評価できるとともに、治療点を導き出すことが出来る。


今回の記事ではパルペーションテクニックを修得する上での基礎・基盤の訓練内容をお伝えした。
ここまでくれば、パルペーションテクニックの基盤と評価・治療の概要は理解されつつあると思う。 各セラピストが、クライアントが抱える問題に沿って応用しながら、パルペーションテクニックを 応用しつつスキルアップを図って頂きたい。

次回はさらにステップアップをした応用編をお伝えする。
あなたのさらなるスキルアップの一助になれれば幸いである。


高木 謙太郎(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/フィジカルセラピスト(理学療法士)/鍼灸師/QOLdesign株式会社 代表取締役)



【第10回】

運動連鎖アプローチ®とボディーワーク ~動作の質~


    運動連鎖アプローチ®における動作観察を「運動連鎖アプローチ®と
    ボディーワーク~ボディーワークの概念~」の稿でも取り上げたクランチを例に視ていく。

    体幹トレーニングでよく挙げられるクランチは「腹筋を鍛える」ために選択されている。
    重力に反して上体を持ち上げることで、腹筋群に負荷がかかる。(図1)単純な動作ではあるが、 指導者側の意識や注意によって、効果は変わってくる。

    図2は、頚部の屈曲のみ行われている状態。
    図3は、骨盤の後傾とともに股関節の屈曲が起きてしまっている状態である。

    それぞれ代償動作が出ている状態ではあるが、仮に見逃していたとしたら、
    運動療法としての効果は下がってしまう。
    図2に至っては、体幹筋の発揮と共に骨盤帯の後傾が起きてしまうことに繋がるため、動作への応用が困難となる。

     では、どういったことに注意していくかを解説していく。
    運動連鎖アプローチ®という観点から着目している点は以下の通りである。

    ・頭部から胸椎全体にかけて徐々に屈曲できているか?
    ・Draw-in(ドローイン:腹直筋・外腹斜筋の収縮を抑制させ腹部を限りなく凹ませた状態)を維持できているか?
    ・骨盤帯は正中位を保てているか?
    ・下肢の角度変位は起きていないか?
    (拮抗筋の同時収縮が起きているか?)(図4)

さらに運動連鎖アプローチ®におけるパルペーションによって詳細に視ていくと、

・胸郭:胸椎屈曲に伴う、肋骨の下制・胸骨の尾側移動は起きているか?
・骨盤帯:寛骨は床と水平、仙骨は寛骨に対し後傾(カウンターニューテーション)しているか?
といった点も必要である。

筋肉の作用も着目していくと、さらに詳細に運動連鎖を分析することが可能である。 ただ、すべてを対象者に説明して、それを意識して行うことは困難であり、かえって混乱をきたすであろう。 そこで、動作の誘導として有効なのが、運動連鎖アプローチ®におけるパルペーションテクニックである。 対象者の動作を手で触って確認することで、動きの中で意識させる部位が絞られてくる。 また、運動中にセラピストがあらかじめ正しい動きに誘導しておくことで、自然に運動の連鎖が引き出されてくる。 対象者も意識する部位や動きのポイントが絞られることで、比較的簡単に目的の動作を遂行することができるのであろう。 クランチに限らず運動療法すべてにおいて、関節1つ1つを動かす視点を持つことで、同じ動作であっても得られる効果に違いが出てくる。

 以上、簡単ではあるが、ボディーワークと運動連鎖アプローチ®における関連性について解説した。 是非、これを機に運動連鎖アプローチ®の視点からボディーワークに興味を持って頂けると幸いである。


難波 志乃(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/GYROTONIC®・GYROKINESIS®認定トレーナー)



【第9回】

運動連鎖アプローチ®とボディーワーク ~ボディーワークの概念~


 今月は「ボディーワーク」の概念を通して「動作の質」というものについて考えていきたい。

 主にヒトの身体に働きかける手段を「ボディーワーク」と呼んでいるが、その定義を確立している文献は無い。 代表的なものに「ヨガ・ピラティス・太極拳」が挙げられ、 他にも「アレクサンダーテクニーク・Rolfing®(ロルフィング)・Yamuna®(ヤムナ)」等、特殊な機具や手技を用いるものもある。 ボディーワークの定義としてWikipediaには以下のような掲載があるが、語彙は不明である。

①治療や自己啓発の方法として、徒手・呼吸・エネルギーに関与する形で、身体に働きかけるもの。
②いわゆる「エネルギー領域」に働きかけて、姿勢改善や「身体知覚」のというよりは「ココロとカラダのつながり」の意識を高め健康増進を目指す。
(Wikipediaより)

 どのボディーワークにも共通していることは相手の身体に「気付き」を与える手段と捉えていることである。 インストラクターの指示に合わせて、身体運動やイメージ・特殊な器具等を使い、自己の身体バランス・柔軟性・硬度等を自身の 身体で感じていく。「身体運動‐身体イメージ‐呼吸‐リズム‐高揚感」が一体となることで、相手の身体能力をより引き出していくことが可能となる。

 ボディーワークの一つに、「GYROTONIC EXPANTION SYSTEM® (ジャイロトニック)」というものがある。 GYRO(ジャイロ)は、らせん・円・捻りという意味を持つラテン語である。脊柱を中心に頭部・上肢・下肢・手指にまで捻りを入れながら、 リズミカルに動くことに特徴を持っている。インストラクターの声かけで、考える暇を与えずひたすら動く。 1~2時間動き終わった後には、柔軟性と筋発揮が備わっているといったことが実感できる。

ジャイロキネシスで重要なポイントは「脊椎1つ1つを動かすこと」である。 それを可能にするために、身体重心・イメージ・呼吸・地面を押す力等を組み合わせて使っていく。 ここで考えなければならないことは、「患者にとって最適な運動形態が選択出来ているのだろうか?」ということである。

例えば、腹筋のエクササイズにおいては、その方法は多々存在するが、共通していることは体幹を屈曲させる動きであろう。 体幹の屈曲という動作を患者はどのように行っているのだろうか?ということを意識して観察してみると、個々人で違うことに気づく。

    ・下部胸椎の屈曲で行っている。
    ・頚椎の屈曲が強く、頸部筋群の活動が強い。
    ・骨盤帯の後傾が起こっている。
     他にも多々あるだろう。

    単に「体幹屈曲」といっても、その方法や代償は人によって様々だ。
    ただ、どれを取っても代償動作を見逃したままでは、弊害が生じてしまう。
    運動生理学的には、頭部・頸部・胸部・腰部が各々の総可動域は
    屈曲245°、伸展180°となる。(図1)。
    相手の体幹屈曲動作における、各部位の角度関係はどのようになっているのだろうか?
    実際に確認してみると個人差があり、個々のアプローチ方法も変わってくる。

 さらに言えば、頸部・胸部・腰部において、脊椎1つ1つは分離して動いていることが望ましい。 例えば、患者でよく視られる動きは、上部胸椎の動きが視られず下部胸椎の屈曲角度が過度になっている状態である。
同時に上部胸椎の代償として、下部頚椎の屈曲角度も過大となり、頚部筋緊張から頚部痛を訴える可能性が示唆される。
運動連鎖アプローチ®では、「動きを観るパルペーション」によって、 このような観察的運動連鎖では把握しきれない筋緊張や各関節の偏移をみている。(第1回「運動連鎖アプローチ®概論‐運動連鎖アプローチ的身体認識論」参照)

難波 志乃(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/GYROTONIC®・GYROKINESIS®認定トレーナー)



【第8回】

運動連鎖アプローチ®の応用 ~体幹について~


体幹に関しては、固定性・安定性 の2つの機能的な考え方があります。

〇固定性:動的な姿勢の中で制御ができない。

短縮性筋収縮もしくは等尺性筋収縮で踏ん張る。
衝撃に耐えるといった場面において発揮される。

〇安定性:動きの中でコントロールできることが重要になる。

腹筋群と背筋群の力がニュートラルの状態になり、腸腰筋や腰方形筋などインナーが働きやすい状態をつくる。

上記のような考え方があり、姿勢制御の幅を広げ歩行・動作の幅を広げていくためにも固定性と安定性のある体幹が必要になります。


 体幹は腹横筋や多裂筋などが重要な部分として挙げられますが、 脊柱のS字カーブも重要となってきます。 脊柱には24個の骨 を分節的に動かすことで柔軟性と、衝撃吸収能力が高まり、身体への負担が軽減するなどの効果があります。

 生理的な脊柱弯曲は、物体が力(作用)に対して、返ってくる力(反作用)を吸収・緩衝する働きを有しています。 ゆえに、頸椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯の3つの弯曲は、長軸上に加わる力を1/10まで吸収・緩衝することができます。 このことからも動きの少ない脊椎分節があると、その隣接部位への負担が増大する可能性があり、 分節性を高めていくためにも、脊椎の深層筋の促通が必要不可欠となります。

 脊椎カーブの動的安定性の評価として、頸椎・胸椎・腰椎を一つのカーブにし、両肩を頭側より尾側へ軽く押して、 その時の跳ね返ってくる弾力性を評価していきます。(図1)
全ての脊椎が屈曲させた状態を作り、全体が均等に曲がりあるか特に頚胸・胸腰移行部が均等に動くかに着目します。 弾力性があるとなると椎間を繋ぐ棘筋や多裂筋が働いてきて促通されてきます。 結果的に分節的に動きやすい深層筋が促通され柔軟性のあるカーブが生まれてきます。



脊柱の安定性が改善することで、姿勢制御における幅が広がり、 頭位を正中位に保持したままでの腰部・骨盤の動きが可能となってきます。

 さらに、体幹の動的安定性へとつなげていくためには、下肢との連鎖が不可欠となります。 正中重力線上に寄せていく力が重要になり、特に腸腰筋・大内転筋・後脛骨筋が働くことで 体幹との連動性が高まり動的安定性を高める軸の形成に繋がると考えます。 これら筋群が適度な筋緊張を伴うことで身体の正中重力線への修正として機能し、 自由度と汎用性のある身体のコントロールにつながってきます。(図2)




大前 卓也(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第7回】

運動連鎖アプローチ®の応用 ~運動器疾患と術後患者について~


 日本は超高齢社会を迎え運動器疾患が50歳以降急増しています。 年代別では、50歳代は40歳代の約1.7倍に増加、60歳代では2倍を超え、70歳代ではほぼ3倍に達します。 このことからも運動器疾患は中高年で顕在化することを示しています。

疾患としては、脊椎疾患、軟骨変性が本態である変形性膝関節症や変形性股関節症が多く、 高齢者の大腿骨頸部骨折はこの20年間で3倍に、人工膝関節手術はこの10年間で2.7倍に増加しています。 今後も有病率が増えてくる可能性があり、その予防と障害の回復・改善に向けても 運動連鎖アプローチ®で提唱しているパルペーションテクニックや考え方を取り入れていくことは有効であると考えています。


 変形性関節症では、機械的刺激などにより軟骨の変性・磨耗を生じ、また関節周囲を取り囲む滑膜の炎症が併発して 変性が加速、血管増生や神経線維の増生をともなう関節包の線維化が起こり痛みを感じやすくなります。 そして、痛みの状態が悪化し人工関節置換術に至るケースが多く見受けられます。


 手術をすることにより、術前に比べ術後は下肢アライメントに大きな変化がみられます。 例えば、変形性股関節症であれば、大腿骨頭は主に上外側、内側、軸方向の3通りの偏位を示し、 最も多いパターンは上外側への偏位で、大腿骨頭が外側に偏位することにより、 荷重部は内側に移行するため、内側の皮質の肥厚が生じる等の変化をきたします。

変形性膝関節症では、基本的に加齢に加え慢性的な機械的刺激が加わって変形をきたします。 その変形方向では内反膝と外販膝に別れ、大腿脛骨角(Femoro Tibial Angle:FTA)はの正常範囲は170~176度ですが、 内反膝では180度以上、外反膝では165度以下となります。手術を行うことによって、正常なアライメントに修正されます。

しかしながら、下肢の荷重面・重心位置が一夜にして修正されることで、起立・歩行など動的な姿勢制御において 再構築が必要な状況になってしまいます。結果、予測的な姿勢制御が損なわれ、動作時の恐怖感増悪、 全身の筋緊張などを高めることになります。これら状態によって運動の自由度、姿勢制御の幅をが減少し、 代償的な動作を使った戦略をとりやすくなることが考えられます。


 臨床においては、体幹や中殿筋・内転筋の機能不全によりハンモックにもたれかかるように 大腿筋膜張筋や腸脛靭帯を使用して身体を支え外側荷重となるケースがみられます。 このような状態になると身体の軸がぶれることで、体幹・足部・上肢など他部位への代償動作を助長してしまいます。

姿勢制御においても前額面上では、非対称となりやすく、左右方向への外乱により、 重心をコントロールできないなどの現象がみられます。これは、関節運動を誘導する筋の収縮が追い付かず、 関節運動が先行することで動的安定性が損なわれる状態といえます。


 受傷部位など局所へのアプローチにおいては、内在的運動連鎖の観点を加えていきます。 パルペーションテクニックにて身体・軟部組織の反応を確認しながら、運動方向を選定し運動療法に繋げて行きます。 より手術前後における身体イメージの差異を修正し、正しい身体運動に近づけることができるものと考えています。 例えば、下肢の粗大筋力向上を目的とした、キッキング という方法があります。 これは、臥位にて足底部から抵抗を加え、蹴ってもらいます。その時に、抵抗部位となる足底部(主に後足部)に圧を加え、 運動方向に応じて骨盤・体幹の代償反応をみます。

治療を進めていく上で、最終的には姿勢制御の幅を拡大させ、歩行・運動時の自由度を上げていくことが有効と考えています。 その過程として、患部局所へのアプローチとともに体幹や足部機能へのアプローチも重要となります。 それら局所と体幹・足部などの動きを、身体全体の姿勢制御に関連させていくことで身体の自由度を高めていきます。

次回術後の運動器疾患・姿勢制御にも影響を与えている体幹について解説します。


大前 卓也(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第6回】

脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用②


立位での姿勢制御評価を解説していきます。まず前額面と矢状面に分けます。

●前額面での姿勢制御


 前額面では図のように本人に左右に体重移動をしていただきます。その際の姿勢制御の評価を行います。 頭部、肩甲帯、上部体幹、下部体幹、骨盤、大腿、下腿、足部においてどのような姿勢制御が行われているかを評価していきます。 正常な運動連鎖では荷重側足部の回内・骨盤の内方腸骨(インフレア)・腰部の非荷重側への側屈・荷重側肩甲骨挙上・頭部の非荷重側への側屈がおこります。
 触診としては中臀筋の筋活動を指標とします。また、中殿筋の代償としての大腿筋膜筋の緊張や姿勢制御の左右差を確認します。

    片麻痺患者の前額面での姿勢制御の主な傾向として図1のような特徴がみられます。

    〇麻痺側への荷重時に骨盤の側方移動が強くなり、
     骨盤の上に体幹が乗らない。
    〇麻痺側への荷重時に肩甲帯が下制し、
     麻痺側体幹の遠心性収縮が困難となる。
    〇麻痺側への荷重時に後方荷重となり
     腸脛靭帯での筋膜性支持となる
    〇非麻痺側への荷重時に非麻痺側の遠心性収縮が困難となる。
    〇非麻痺側への荷重時に移動幅が少ない


●矢状面での姿勢制御


 矢状面では図2図3のように、患者の骨盤を前後に誘導しながら姿勢制御の評価を行います。 その際、頭部、肩甲帯、上部体幹、下部体幹、骨盤、大腿、下腿、足部においてどのような姿勢制御が行われているかを評価していきます。 特に矢状面では股関節・足関節の戦略を注意深く観察していきます。以上の姿勢制御評価によって得られた現象は、 歩行時の股関節・足関節の動きの戦略にも関わってきます。
脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用


    片麻痺患者の矢状面での姿勢制御の傾向として、図4の特徴がみられます。

    〇非麻痺側および麻痺側も両側股関節、
    足関節ストラテジーの協調性がない。
    〇非麻痺側優位での重心移動となる
    〇膝を曲げながら前後方への重心移動を行う。


●姿勢制御の評価を歩行へ繋げる


はじめは正中での前額面・矢状面に分けて評価を行っていきますが、 徐々に左側の後方~前方を評価し左の踵接地から踵離地までの姿勢制御の評価を行い、 右側の後方~前方を評価し右の踵接地から踵離地までの姿勢制御の評価・治療を行っていくことで、 歩行の立脚期での姿勢制御の評価につながっていきます。今回は体幹・下肢を中心に述べましたが、上肢にも配慮をしながら行います。


引用文献)山本尚司:ロコモティブシンドロームを防ぐ姿勢制御の評価法.医道の日本.2013年8月号p86-92


樋口 明伸(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第5回】

脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用①


 中枢神経系に問題が生じると感覚受容器閾値の変化、姿勢緊張の問題(特に体幹・頭頚部)、 ひとつの情報(特に視覚)への固執が起きやすい。これは情報が「無い」「少ない」ことが問題なのではなく、 脳に上ってくる情報として質的に「異常」であることが問題となります。 そしてこれらのことは、代償的な過緊張状態を呈する非麻痺側にも生じ得ます。

 麻痺の回復における理論的背景にもなっている、脳の可塑性がDr.Nudoのリスザルの実験により発見され、 様々な実験及び研究により脳が変化していくことが確認されています。また、脳は発生学上、 外肺葉由来であり皮膚も同様であることからも、触診による感覚入力の有効性が示唆されます。

 また、「脳卒中ガイドライン2015」の中では、エビデンスとして積極的な離床、課題反復訓練、電気治療などの効果が示されており、 そこに、運動連鎖アプローチ®で提唱しているパルペーションテクニックを組み合わせることが有効であると考えています。

 脳卒中片麻痺患者は非麻痺側の上下肢においても、動作の遂行において困難を生じることが多くみられます。 これらは、姿勢コントロールの問題(対象へ近づくこと・対象から遠ざかること・ボディイメージ)、 手指の知覚情報(環境・対象物のもつ情報)、探索の問題によるものと考えます。


 姿勢制御はPreparatory  anticipatory postural adjustments (APA‘s)1)(pAPA’s)2)と Accompanying APA‘s(aAPA’s)3)に分けられます。
 神経生理学的には、抗重力的な活動における神経機構は腹内側系支配であり、 ①前皮質脊髄路②前庭脊髄路(バランスのための素早い活動と姿勢緊張の自律的変化を行い、 主に同側性に動いた時の頚部・体幹の伸展を誘導:立ち直り反応) 重心移動に強く関与。 ③網様体脊髄路(安定した姿勢で優位に働き、体幹の姿勢安定性を司る)があります。 そのため脳卒中片麻痺患者は非麻痺側の体幹機能も障害をうけることになり、動作困難性が起きやすくなります。 また、脳卒中患者では運動学習においても、課題の難易度、転移性、量、興味などに配慮をする必要性があります。

 脳卒中患者は上述の通り体幹機能が低下しており、立位歩行において体幹屈曲位・骨盤後傾位をとなりやすく、 中殿筋後部繊維のover useを引き起こします。そのため、立位及び立脚期に大腿筋膜張筋から腸脛靭帯にかけて、 寄りかかる戦略を用いやすくなります。また、臨床において観察される典型例として、麻痺側の足部では踵骨が内反しやすく、 非麻痺側では逆に偏平足傾向になります。

 次に、脳卒中患者において立位歩行に影響を及ぼしやすい、骨盤の評価について解説します。骨盤は下記の図1・図2のような可動性があり、後方より後上腸骨棘(PSIS)を触診し、骨盤の変位を評価していきます。また、評価時に腹式呼吸を同期させると骨盤の動きが拡張し動きが触知しやすくなります。 次回は、実際にどのように姿勢制御評価を行っていくのかを紹介していきます。
脳卒中患者に対する運動連鎖アプローチ®の応用
(運動連鎖道場資料 カパンジー機能解剖学より 改変)

1)anticipatory postural adjustments (APA):予測的な姿勢を調整するもので、先行性随伴姿勢調整と言われている。
2)Preparatory APA‘s(pAPA’s):準備的なAPAであり運動が起こる50~300ms前に起こるFeed Forward
3)Accompanying APA‘s(aAPA’s):不随意的なAPAであり運動が起こっているときに起こるFeed Back


樋口 明伸(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)



【第4回】

運動連鎖アプローチ®概論―呼吸と運動連鎖<リズム運動と脳の賦活という視点から>―


 今回は呼吸と運動連鎖についてリズム運動と脳の賦活という視点から述べていきたい。
 呼吸は歩行運動や咀嚼運動と同様に中枢性パターン形成機構によるリズム運動の1つであり、 これが上行性網様体賦活系を刺激し、セロトニン神経が賦活され脳全体に投射される。セロトニンは ドーパミンやノルアドレナリンとともに働く脳内物質の一つで平常心や安定感に関わる。 また覚醒時には姿勢筋や抗重力筋に対して持続性緊張を与える効果が期待される。

 このセロトニン神経の賦活のための呼吸は漫然と行うものではなく、近年ヨガ、ピラティス、 ジャイロキネシスなどのボディワークで行われるように集中してリズムよく、持続的に行うことに効果があるとされる。 運動連鎖アプローチ® ではこのボディワークの要素を取り入れ、従来の理学療法の特色である 身体の使い方などの運動学的効果や脳の可塑性といった機能だけでなく、高揚感、充実感、 気持ちよさといった精神的な賦活をボディワークを通して促すという視点を併せ持っている。

 また理学療法では痛みにアプローチする場面も多々ある。セロトニンは痛みに対しても効果を発揮する。 痛みがある場合、呼吸は早く浅くなりノルアドレナリンが活性化している状態である。 その場合にもリズム呼吸を用いることにより、セロトニン神経が賦活されて扁桃体に作用し、 扁桃体に入力する情報、及び扁桃体から出力する情報のうち、不安や恐怖の感情を抑制するとされ、 痛みに伴う負の感情を減らすことができる。またセロトニンは下行性疼痛抑制系に関与し、 脳幹網様体から脊髄後角に作用することで痛みを抑制する効果もある。

 このように呼吸法を通じて姿勢や痛み、精神的なコントロールに作用をもたらすことが可能になる。 そして運動連鎖アプローチ® では、この呼吸法をいわゆる呼吸理学療法の視点だけでなく、 ボディワークの視点も含めた幅広い視点から理学療法と融合し、多角的な視点からのアプローチを行っていく。 興味がある方は是非一緒に運動連鎖アプローチ®を学んでいこう。


山岸 恵理子(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/呼吸療法認定士)



【第3回】

運動連鎖アプローチ®概論―呼吸と運動連鎖―


 人は1日に15,000回以上の呼吸を行う。フィジオ運動連鎖アプローチ協会では、呼吸を「運動連鎖の最小単位」と捉え、 1本1本の肋骨の変位を意味があるものとして臨床推論をしていく。
 呼吸は横隔膜及び外肋間筋の作用により胸郭の容積を変化させ、胸腔内圧が陰圧になることで惹起される。 この『胸郭』は柔軟性のある籠であり、姿勢や四肢の変化に影響を受けやすく、 全身の代償作用を有する。そのため呼吸を評価することにより、全身の代償としての胸郭という視点で 評価することができる。

 胸郭の代償作用の1つとして、頭蓋・顎関節由来の代償作用がある。運動連鎖アプローチ®では 上部平衡系と称するもので、頭蓋と頚部のアライメントにより胸郭の代償作用が生じる。 最も一般的な例としては頭部前突位による上部胸郭の後弯であろう。この姿勢では上部胸郭の可動性の 低下はさることながら、横隔膜の可動性も低下する。そのことにより、浅く早い呼吸が生じることとなる。

 2つ目に上肢の運動軸としての代償作用がある。肩甲骨は胸郭との間で肩甲胸郭関節を作り、 肩関節と体幹の連結を行うだけでなく、肩甲骨や肩関節周囲筋の働きにより平衡機能や呼吸機能にも関連する。 脳卒中片麻痺では肩甲骨のアライメントが変化しやすく、胸郭の左右非対称性が生じやすいため、 呼吸状態の左右不均衡が生じることとなる。

 3つ目に骨盤帯・下肢からの代償作用がある。骨盤帯は腰椎及び、腰方形筋や大腰筋その他の 腹筋群や背筋群により胸郭と連結している。肩甲骨と同様に平衡機能や呼吸機能とも関連する。 特に腰方形筋や大腰筋は横隔膜の後ろを通り、筋膜性の連結があるため呼吸との関連も深く、 下部胸郭の前後左右の非対称性につながり、呼吸状態の前後左右不均衡が生じることとなる。

 以上のように呼吸状態を評価することにより、四肢の機能や姿勢の影響を評価することができる。 ともすると各関節や部分での評価となってしまいがちだが、全身を1つのシステムとして評価することに 運動連鎖アプローチ® の意義があるように感じる。今回は呼吸、胸郭システムを中心に記した。 次回は、呼吸と運動連鎖をリズム運動・脳との関連いう視点から紐解いていきたい。


山岸 恵理子(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター/呼吸療法認定士)



【第2回】

運動連鎖アプローチ®概論―内在的運動連鎖―


 フィジオ運動連鎖アプローチ協会では、運動連鎖という概念を、「観察的運動連鎖」と「内在的運動連鎖」という 2つの概念に分けて考えている。「観察的運動連鎖」とは理学療法士が得意とするところの視覚を通した動作分析に代表される。

 人体の骨関節においてはある程度一般化された体系があり(上行性運動連鎖や下行性運動連鎖など)、 そのため「観察的運動連鎖」では一つの関節の位置が決まれば生体力学的、人体構造学的法則により他の関節の位置まで 大まかに把握できるという利点がある。熟練により、歩行動作などの 分析においても視診のみにて動作の解釈が可能となる。

 「内在的運動連鎖」とは触覚(以後は触診)を通して、身体の運動連鎖を把握する。ここでは骨関節に限らず軟部組織、 特に皮膚やさらに筋膜まで含めた身体の表層部分の連鎖が重要となる。皮膚や筋膜などの軟部組織も やはり大きなネットワークがあることは、近年アナトミートレインや筋膜リリースなどの概念が紹介されるようになり、 理解しやすくなったといえる。
また古くは東洋医学の経絡などもある部分ではこの軟部組織の連鎖を診ているものと考えられる。

 「内在的運動連鎖」の最も大きな利点は、複雑な身体運動である歩行や走行、 またはスポーツ競技に特化した独特な動き(野球のバッティング、ゴルフのスィング動作など)も、 実際の動きを診ずとも、触診にて皮膚や筋膜の流れを追うことで動作分析することが可能である。

 これは軟部組織にはその人の身体情報が内包されていると考えるため、 皮膚や筋膜の動きの方向はその人の身体運用と密接に関わっているからである。 また、この皮膚や筋膜の動きが滞っていたり破たんした部位では“違和感”や“不快感”を感じる。 よって運動連鎖アプローチによりこの軟部組織の動きの質を改善することで、身体運動の動きの質も改善する。

 従来の触診はいわゆる解剖学的触診であり、主に骨・関節・筋肉などの解剖学的組織の把握や局所に直接物理的な刺激を 加えることが目的であったが、「内在的運動連鎖」で使用する触診は①受動的触診と②能動的触診の2つの触診方法があり、 それぞれは主に生体の変化と反応を診ること、そしてその反応を引出しつながりを誘導するところに、 従来の解剖学的触診との違いがある。

 ①受動的触診では相手の身体に触れた際にこちらからの働きかけを一切なくし、ただ黙って手を置くことにより、 相手から感じる皮膚や筋膜の情報を一方向的に受け取る。これは現時点での相手の身体アライメントを把握することに役立つ。

 ②能動的触診では相手の身体に触れた際、施術者がある方向に軟部組織を動かすことにより、相手の軟部組織の反応を受け取る。 たとえば肩甲骨の高さに左右差がある場合、どちらの肩甲骨が挙上、もしくは下制させたほうがよいか迷うことが多々あると思われる。 その際、右か左のいずれかの肩甲骨周囲の軟部組織を能動的に動かすことで、反対側に反応があるかどうかを確認し、 反応があった側を治療側と決定する。(右肩甲骨に触れた際、何かしら左肩甲骨に反応が生じる。 逆では何の反応も生じない場合、治療部位は右肩甲骨となる)。

 このように①受動的触診では相手の身体アライメントを把握する際に使用し、②能動的触診では治療的アプローチを行う際の、 施術方向や力加減、施術部位などの決定に使用される。

 以上で運動連鎖アプローチにおける「内在的運動連鎖」について述べてきたが、 運動連鎖の把握には視覚的に優位な場合と触覚に優位な場合とそれぞれに一長一短がある。 どちらが優れているとは言えず、どちらをも補完するような形は一つの理想形といえる。 しかし各々の施術者の優位な感覚や思考法があるため、各人が得意な診方を習得していくことが大事といえる。 触覚的な感覚が優れていると感じる方や視覚的な動作分析を苦手と感じる方は、 一度は運動連鎖アプローチの門を叩いてみることをお勧めする。


芹澤 誠(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)




【第1回】

運動連鎖アプローチ®概論―運動連鎖アプローチ的身体認識論―


 あらゆる治療方法には、それぞれ特有の身体観がある。例えば理学療法では人体の動きを関節運動や筋運動によって理解する身体観となることが多い。 また鍼灸では身体をツボという“点”を経絡という“線”で結んだ身体観によってとらえられる。

 カイロプラクティックでは脊柱を中心とした骨格構造に注目した身体観が一般的だと思われる。 他にも、脳神経を中心とした神経学的身体観、心理/認知的機能を中心とした認知神経科学的身体感、 感情変動を中心とした身体観、身体をエネルギー体としてとらえるエネルギー的身体観など、 治療家はそれぞれの治療家の寄って立つところの認識によりさまざまな身体観を持っている。

 運動連鎖アプローチ的身体観では、大前提として人の身体は解剖学的にも機能的にも様々な階層性(レイヤー)が 存在するという認識が不可欠となる。階層性とは人の身体は骨があり、骨同士で関節を作り、 筋膜で包まれた筋肉・靭帯・腱でつながり、その周りを血管・リンパ管がめぐり、脳神経を中心とした神経系で統制されている。 そしてそれらが皮膚という膜で全身が包まれている。

 さらに、それぞれはこの地球において重力という力の影響を受けながら、姿勢を保持するために互いに連携し合い平衡を保っている。 このような身体観において運動連鎖という言葉は、骨関節による運動のつながりを指すのみではなく、 身体を構成する全ての要素のつながりを運動連鎖アプローチでは運動連鎖と認識している。 この場合、身体内の連鎖を把握していくためには、身体における多様な側面の認識と、 それを触知する施術者の感覚が非常に重要となる。

 運動連鎖アプローチ代表の山本はこのような運動連鎖を一般的な運動連鎖に対して、“内在的運動連鎖”と呼んでいる。 運動連鎖アプローチの最も重要なテクニックである“触察(パルペーション)” つまり触診では、必ずどの組織へアプローチしているのかをはっきりと意識しながら行う。

 触れる場所は当然体表となるが、体表を触れながら、施術者の認識は骨・筋、筋膜・神経・血管など 必要な箇所にラジオの電波をキャッチするようなごとくチューニングを行う。 このため、運動連鎖アプローチ的身体観では場面や状況によって、施術者は目の前のクライアントが、 骨関節からのアプローチが有効なのか、もしくは皮膚・筋・筋膜など表層のアプローチが有効なのか、 さらには臥位か座位か立位のいずれの姿勢反応が有効なのか、さまざまな条件に施術者の意識を変化させながら 触診を通じてモニターを行い(チューニング)、クライアントに対する身体観を変化させていくことが大事となる。 また、セラピストは、状況に応じた柔軟な思考が必要とされる。

次回は「内在的運動連鎖」について紹介したい。


芹澤 誠(フィジオ運動連鎖アプローチ協会 インストラクター)